〈健介視点〉
やぁ、元気かブラザー。俺は今絶望のどん底にいる。
なぜかって?
それは、わが妹に発見されたのだ。
いや発見されてうわっと引いて去ってくれたらまだ良かった(いや良くはないが)
何を血迷ったか「何やってんの!?兄貴!」と叫ばれ連れ戻そうとリングに上がってきて引っ張られているからだ。
俺は今志々雄真実の格好だ。
分かる人は分かるだろう肌に直接ぴっちぴちに包帯が巻いてある。
何で分かんだよ!
俺はお前のイメージのなかで、こんな風な変態チックなのか!?
ああ涙が出ちゃう、だってお■■■■だ・・・はっ!危ないカオスに入ってたぜ。
ちなみに妹はメイド喫茶をやるってことでメイドルックに顔はきれいに化粧されている。
おいおい妹よちょっと待て……
あれ〜なんか後ろからビシビシ何かを感じますよ〜
特殊能力のない俺でも……
そう思い振り返ると……
うん、死んだな。
なぜなら、般若の顔をした金髪幼女が「なめるな!」と言って突っ込んできてんだよ!!
その声に反応し俺と妹は勢いよく振り返った。
ここで幸運だったのは(いやすべてひっくるめるとむしろ不幸だが)幼女が真っ直ぐに突っ込んできたことだ。
俺と妹がタイミングよく振り返ったおかげで幼女の進行方向は道が開けたんだ。
よかった何とかよけられた!
もうここ数年分の幸福を使い切ったかもしれん……
まぁ、ここでうまく終わるほど神はやさしくないし、むしろひねくれてる。
つまり何がいいこのまま終われなかったってことだ!
ふと見れば幼女がなぜかつまづき前のめりにこけかけている。
よく見れば……
ああ諸君考えてみてくれ俺と妹は勢いよく振り返った。そして幼女はすごい速度で突っ込んできた。
うん動く暇ないよね。つまり、振り返ったときの軸足はそのまま進行方向にあるだねこれが!
まずい!
このままこけてしまえば、幼女は怒り狂い俺は死んでしまう!!
俺はすぐに手を伸ばす。
おっしゃ〜!届きそうだ。
おし!掴むぞ。
ドゴ! バキ!
あれれ〜なんか掴んだにしては変な音だな〜どこからの音だろ〜
……よし現実逃避はやめよう。
音の発信源は幼女。詳しく言うと掴もうとして乗り出した俺のひざと驚いて思わずビクっとして上がった妹のひざが幼女のアゴと腹にジャストミートしたんだよ。
呆然としている俺たちになぜかひどく怯えて消え入りそうな声で審判が言葉を発する。
「山下慶一選手はっ反則負け」
おいおい妹が乱入してきたんだたしかに反則だろう。コレはむしろ負けれて嬉しいと思う。
だが幼女をノックダウンしたのはわざとではないんだ……
だからそんなに怯えないでくれ。
俺のほうが幼女が起きたときの事を考えてガクガクブルブルと怯えたいくらいだっつーの!
そのとき苦しそうに幼女が顔を上げた。
ひっ!やばい何か言われる前に謝って逃げ出そう。
「すまない妹が乱入するとは思わなかったんだ。
 だからこんな風に(たまたま君をノックダウン)するつもりはなかったんだ」
謝った俺は、振り返らず妹を連れてリングから去った……もちろん全力でな!


〈エヴァ視点〉
 戦いを再開しようとした瞬間それは唐突に現れた。
 奴の妹と名乗るメイド姿の小娘がリングに入ってきたのだ。
 それはいい小娘一人私には何の関係もない……
 だが私は怒りくるっていた。
 なぜなら小娘が現れたときから奴の意識が私にまったく向いてないからだ!
 ふざけるな、今まで死合いをしていたのに!
 いや、そもそもそれは私だけだったのかもしれない。
 奴にとってはこの程度死合いにすらはいらないのだろう。
 たしかに殺すことはできんが私はそのくらい集中していた。
 奴にとって封印された私など相手ではないと言うことか!!
 おのれ! 人をコケにするのも大概にしろ!
 そう思った瞬間私は「なめるな!」と叫び無意識に突っ込んでいった。
 後から考えるとなんと無謀なことだろう。
 何の策もなしに奴に……
 奥村健介にただ真っ直ぐ突っ込むなど。
 奴との一進一退の戦いのプレッシャーもあったのだろう私はそのときまともな判断ができなかったのだ。 
 案の定私は数秒後リングに横たわっていた。
 いったい何が起こったと言うのだ!?
 ただ突っ込んだだけとはいえかなりの速度での攻撃だったはずなのに……
 私の攻撃は空を切りアゴと腹に反撃を受けたのだ。
 くそっ!やはり奴の攻撃には予備動作がない。
 こんなものよけられはしない……
 魔力や気を纏ってなくとも不意にアゴに痛烈な一撃を食らったためすぐには起きられなかった。
 そしてよく考えると腹の一撃は奴の妹だった。
 妹のほうも只者ではない。
 おそらくあの衣装と顔の化粧も普段のイメージから遠ざけるためのものだろう、奴同様顔を隠しているということは裏のものか……
 何とかして顔を上げると奴が言った。
「すまない妹が乱入するとは思わなかったんだ。だからこんな風にするつもりはなかったんだ」
 なるほどおそらく奴と妹はパートナー違ったとしても共に戦う相棒のようなものだったのだろう。
 いつも一緒にいたため私の攻撃がスイッチとなり奴等の本当の動きを出してしまったのだろう。
 くそ! と言うことは何かこんな風にするつもりはなかったと言うのは、本気を出すつもりはなかったと言うのか!
 おのれ、許さんぞ決して許さん いつか必ず殺してやる!!!


 〈タカミチ視点〉
 恐ろしい戦いだった。
 本来魔法使いの戦いとは派手であり一撃必殺に近い技を皆が持っているので、ここまでレベルの高い戦術戦はあまり見たことがない……
 結果は彼の妹の乱入で反則になってしまったが、最後にエヴァに妹と共に繰り出した一撃を見たところ、おそらくエヴァは負けていただろう。
 エヴァ本来の化け物じみた魔力がないと言っても彼女は600年生きた吸血鬼だ格闘技だけでもかなり優れている部類に入るだが、彼はそれを魔力・気をまったく使わず互角いや、それ以上に闘って見せたのだ。
 特に最後の二人での攻撃あれをよけられる者はいや者だけではなく物の中にも果たしてどれだけいるだろうか……
 もしあれに魔力・気がこめられていたとしたらと考えるとゾッとする。やはり学園長に確認を取るべきだな……

- 目次 -

inserted by FC2 system