ある戦艦にて
ティターンズ、エゥーゴ。
どちらも気に入らないが、両者は考えを軟化させるどころかより硬化していき、ついには全面的な武力衝突へと発展した。
俺はあくまでどちらにも属さない連邦兵だ。そのつもりだ。
そのはずだったのだが、俺を取り巻く環境はティターンズに傾いていく。
俺は地球生まれの宇宙育ち。いうなれば、スペースノイドだ。
俺だけじゃない。俺の周りは皆そうだ。
なのに、ティターンズに組み込まれていく。上がアースノイドだったのだ。それでも、俺たち自信は正式なティターンズではない。アースノイドではないからだ。
クーデターを起こすような気概はない。そもそも命令に背く気もあまりない。渋々だが、受け入れるしかないのだ。
とにかくティターンズは強引だ。あまりに強硬すぎる。
これでは、すべてのスペースノイドを敵にまわすのは時間の問題だろう。
難しいことは俺にはわからない。
しかし、俺の目の前で起こった事はわかる。
あの日、あの『カミーユ』という男がティターンズのモビルスーツを奪った。
彼は民間人、それもただの学生のはずなのにだ。
たしかに、両親のビダン夫妻は軍人で技術士官だったのはたしかだ。俺も食堂で見かけた事がある。
なんでも、あの二人は戦死したらしいが、それはカミーユ君がエゥーゴにガンダムを持っていった後のことだ。
その後のガンダムmk−Uとカミーユ・ビダンのことは聞いていいない。
先日、月のどこかで戦闘があってそこにガンダムがいたという話は聞いたが定かではない。
俺はというと、哨戒任務を中心にした部隊にいた。MSのパイロットとしてた。
乗っているのはハイザックと呼ばれる機体だ。
どうみても、ザクだ。ティターンズはジオン残党の討伐を主としていたはずなのに、そこのモビルスーツがザクとは、よくわからん奴らだ。
俺が色々考えながら寝ていると、部屋にグルベルニク少尉が入ってきた。
「中尉、そろそろ時間だぜ」
「ああ。お前、今まで何してたんだ? 起きたらすでにいなかったけど」
「ジムだよ。宇宙にいれば身体が鈍るからな」
「そりゃそうだけど、お前はやりすぎだよ。基地に帰る頃には筋肉量が増えてるんじゃないか」
グルベルニクが、その肉体美を見せ付けるようにボージングをする。
気楽な奴だ。
「そういや、トンバは治ったかな」
「トンバか。今頃酒でも浴びてるんじゃないか」
「ありそうだ」
ジェリドの馬鹿のせいでトンバは即入院となった。見た目はひどくなかったのだが、大腿骨が砕けてたらしい。
すぐに人工骨を入れたし、今頃はリハビリに入ったはずなのだ。
「グリプスにはいつ戻れると思う?」
「さあな」
予想もできない。いつまでこんなことが続くのか誰にもわからないのだ。
俺たちはティターンズとはいっても、正規ではない。奴らが勝手に組み入れただけだ。この艦にいるティターンズはブリッジの数人くらいだ。
だから、エゥーゴを遭遇してもまともな戦闘はしていない。おかげで、俺はまだ生きている。
「ブリーフィングルームだよな。面倒だが仕方がない」
「そうそう。終わったら、ジムに行こうぜ」
まだ行く気だ。
俺も行くには行くが、こいつは生きすぎだ。さっきの冗談が本当になりそうで怖い。
ぐっと身体を起こす。
「次は何をするのかね」
「ブリッジで聞いた分では、エゥーゴの連中がジャブローに攻撃を仕掛けるらしい」
「ジャブローに? 馬鹿な奴らだな」
ジャブローは連邦軍の司令部が存在する。さらに、ティターンズの本拠地でもある。
あそこを叩けば、ティターンズも瓦解するだろうが、あのジオンでさえも落とせなかった場所なのだ。
奇襲を仕掛けても落とせるかどうかわからないのに、ティターンズ側にばれているようじゃエゥーゴもだめだな。
ティターンズとエゥーゴ。どちらも長くは持たない。
あとはどちらが先に潰れるか。そこだけか。
「でもよ、俺たちはなにをするのだろうな」
「ジャブロー降下を阻止するらしい」
「なら、俺たちも地球の重力に従って降りていく事になるな」
グルベルニクが不思議そうな顔をしている。
そんなに俺の言った事が変なのか。
「俺たちまで降りるのか?」
「おそらくな。どうせエゥーゴのほうが先行するだろうから、こっちは後追いだ。そうなりゃ全部を降下前に止めるのは不可能だ。だから、俺たちも奴らを追ってそのまま降りる。まあ、全機降下する必要はないから、俺たち二人が降りるかどうかは始まってみなければわからないけど」
珍しい。
俺がこういうことを考えるなんて。
「ガンダムもいるのかな」
ガンダムか。あのカミーユ君はどうなったのだろう。あのまま、あの歳でエゥーゴなんていう危険な連中と一緒にいるのだろうか。
「いるかもよ。たぶん色は黒くなくなっていると思うけど」
俺たちは大声で笑った。