地球降下


「ガンダムmk−Uは出ているか?」
「焦るなよ。場所が場所だ。重力に引かれるぞ」
 ついてない。
 俺はグリプスに行ってから天に見放されたのか。そう思ってしまうほどついてない。
 エゥーゴのジャブロー攻撃を阻止すべく出撃したのだが、何故あのジェリド・メサと同じチームなのだ?
 おまけにカクリコンまでいやがる。
 揃いもそろってガンダムを奪われたこの二人と一緒にいるなんて怖い怖い。いつ誤射されるか。
「だからこそチャンスだって言ったんだろ?」
「そりゃあそうだ」
 しかも、まだガンダムにこだわっている。
 あんまり固執しすぎると自分を殺すってことをわかっていないのか。
「おい! ついてこれんのか!」
「いえ、大丈夫です」
 こんな場所で戦闘だなんて、誰がこの作戦を考えたのか。
 バリュートが開くまでの短い時間では降下を阻止するなんてできるはずがない。挙句の果てに、そのまま地球に降りろなんて。
 ジャブローにたいして、宇宙から援軍を送る必要があるのだろうか。あそこがそう簡単に落ちるとは思えない。
 だが、もう戦闘は始まっている。
 艦砲射撃は激しくなっているし、エゥーゴも部隊を出している。
 けっこうな数だ。
「なあ、ジャングルってのは珍味の宝庫なんだぜ。向こうに着いたらサバイバル訓練だな」
「お前って奴は……」
 グルベルニクも一緒に出撃している。カクリコンと同じチームだ。
「やっぱりあの白い芋虫が最高だよな。いや、あのミミズもなかなか――」
 さすがについていけないな。
 サバイバル訓練をなんだと思っているのだろうか。こいつのことだ。自然の珍味を食べるツアーとでも思っているのだろう。恐ろしい奴だ。
「どうでもいいが、そろそろ時間だな。グルベルニク、失敗するなよ」
「バリュートが開かなきゃ、ご馳走にありつけないもんな」
 まだ言うか。
「見えた!」
 ジェリド機が動いた。
 こうなりゃやけだ。ついていくしかない。
「じゃあな、グルベルニク」
「ああ、お前も――うおぉ!」
「グルベルニク!」
 そんな、そんなことって……
 グルベルニクがやられた。
「くそっ! なんだってあいつが!」
 感傷に浸る暇はない。
 俺はハイザックの操縦に集中する。
 ジェリドはすでに後続機を無視して突っ込んでいる。ついていっているのはカクリコン機くらいだ。
 追いつかなくては。
「時間が無い」
 これじゃあ、戦闘どころではない。
 確実に降下するほうがよさそうだ。でも、ジェリド機を離れすぎれば、俺も危ない。
 現在の高度を示す数字がものすごい勢いで減っていく。その上にはバリュートの開くまでの時間が示されている。
「まだいける。でも、なるべき早く手動で開く方が無難だな」
 周囲に敵機はない。
 ここはおとなしくしておきたいが。
「あれは……ガンダムか? 何か変なものに乗っかっているが」
 こんなに機体操作が難しい場所であそこまで動かすとは。あのパイロットめ、なかなかやるな。
 ジェリドとカクリコンがガンダムを追い込もうとしているが、無理だろう。時間が足りない。
 大気圏突入で失敗して死ぬなんて事は普通はしない。そんな阿呆はパイロットにはなれない。まがいなりにも適正試験をパスしてきた奴がMSには乗るのだから。
「これ以上は無理だな。よし!」
 俺は戦闘に見切りをつけて、バリュートを開く。
 背部に取り付けられたバリュートカプセルが開き、機体が包まれる。
 これでいい。あとは正面に来る奴を攻撃していれば落とされる事はないだろう。
 少し離れたところでジェリド機のバリューとが開いた。
「カクリコン機はどこだ?」
 見えない。
 いくら気に食わない人間だとはいえ、死ねとは思わない。
 付近の機体はほとんどバリューとを開いている。
「ああぁぁ、アメリア―−!」
 カクリコンの声?
 すぐ近くでモビルスーツが大気との摩擦に耐え切れず粉々になっていくのが見えた。
 あれがカクリコン機なのか。無駄死にをするなんてな。
 しかし、身の危険は俺にも迫ってきていた。
「ん? 狙われている?」
 しまった。
 カクリコン機をやった奴が近くにいるのだ。
 まずい。
 この状況では反撃できない。
 おそらくさっきのガンダムだろう。あの変てこな板は大気圏突入用のものなのだ。
 あれなら、ある程度大気圏突入時でも攻撃ができる。
 終わったな。
 ここまでだ。
 俺は目と瞑った。
 神に祈るような事はしない。ただ、やるなら一瞬でやってくれ。
 だが俺の思いとは裏腹に、敵のライフルが俺のハイザックを打ち抜く事はなかった。
 そして、敵機は離れていく。
「助かった、のか?」
 俺は呆然としつつ、地球の重力も感じていた。

   
 

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