ジャブローにて


 どうなっている?
 ジャブローに降りてきたとたん、ガルダ級に乗って逃げろっていうのは。
「どうしたんだ? なにがあった?」
 逃げ惑う兵士に尋ねるが誰も答えない。
 皆一直線に緑色のガルダにむかっている。
「おい! どうしたんだよ!」
 誰でもよかったから、適当な奴を掴んだ。
「放せ、急がなきゃ死んじまう」
 そいつの顔見て驚いた。
「ドラゴ・ヴァイディッチ?」
「あん? そういうお前は、タケシじゃねえか」
 ヴァイディッチだ。こんなところで会うとは。
「なにがあったんだ? 教えてくれ」
「はあ? 聞いていないのか?」
 相変わらず口が悪い。
「何の事だ?」
「基地の地下に核がセットされていて、もうすぐ爆発するらしいんだよ」
「な、なんだって!」
 こいつの顔、嘘じゃない。
 本当に核が爆発するのかよ。
「だから、あのスードリで逃げるんだよ」
「わ、わかった。俺も行く」
 行かなきゃ死ぬ。
 こんなところで死んだら、何のために地球に降りてきたのかわからなくなる。
「さっさとしろ!」
 ヴァイディッチが俺をおいていってしまった。
 早くしなくては。
 周囲の様子から、時間がないことは理解できる。
 エゥーゴの連中も逃げ出す準備をしているようだし、任務どころではないな。
「ジェリドはどこに行った? まあ、どうでもいいか」
 ふと、ジェリド・メサのことが気になった。
 降りてきて以来、どこに行ったかわからなくなった。俺がはぐれたんじゃない。向こうが勝手に突っ込んでいってしまったのだ。
 役に立たない奴だ。
 パイロット以前の問題だぞ。軍人としての適正を疑うよ。
 俺も人のことを言える軍人じゃないが、あそこまで我の強いのはどうかと思う。ある程度の命令は聞かなければ軍人とは言えない。
 それよりはまず、自分の命を守らなくてはならない。
 人の事を考える暇はない。
 俺は走った。
 脚には自信がある。
 一人、二人と抜いていく。
 あれだ。
 あのタラップを上ればいい。
 タラップは細いので、なだれ込むように乗るわけにはいかない。
 仕方がないので、俺はその列の一番後ろに並んだ。
 ここまでくれば乗れるだろう。
 後ろから、早くしろと罵声が飛んでくるが、知ったこっちゃない。
 一段、一段昇っていく。
「定員の3倍は乗れる!」
 やっと入れる。
「押すな。もう少しだけ時間はある」
 突然、俺は腕をつかまれた。
 そして、引っ張られる。
「何――」
「俺だ。さっさと入れ」
 ヴァイディッチだった。
 同期の誼ってやつなのだろう。口は悪いが仲間想いの奴だったことを俺は思い出した。
「すまない」
 俺はヴァイディッチに引っ張られるままスードリに乗り込んだ。
 まだまだ乗れていない人がいる。
 人を掻き分けながら無理やりタラップをのぼって来る男が一人。
 ジェリド・メサじゃないか。
 何て野郎だ。こんなときにまで人を押しのけるとは。
 でも、俺がヴァイディッチにしてもらったことを考えると、手を貸さないわけにもいかない。
「中尉!」
 俺はジェリドの腕を掴んだ。
 そして中に引き込む。
 もうスードリは動き始めている。
 だが、ジェリド・メサのとった行動は、俺の彼を助けるという判断が誤りだったことを証明した。
 なんと彼は俺の腕を逆に掴み、外に引っ張ったのだ。
 不意の事で俺はなす術がなかった。
 あっという間だった。
 俺は落ちていく。
 スードリから。
 ジェリドの後ろ姿がはっきりと見える。俺を落としただけでは飽き足らず、無理やり中に入っていく。
 何てことだ。
 俺は何て馬鹿なことをしたのだ。
 長く思案するほどの時間は無かった。
 すぐに俺は人の上に落ちた。
 この人の上に落ちなければ動けなくなっていたかもしれない。
 俺の下敷きになった奴はすでに冷たくなっていた。
 可哀そうだが、俺のせいじゃない。
 俺は走った。
 もう一機のガルダ級に。
 間に合わなければ、核爆発に巻き込まれ死ぬしかない。
 アレだ。
 あっちも動き出している。
 まだ離陸はしていない。
 あれなら乗り込める。モビルスーツデッキが開いたままだ。あそこから入ろう。

   
 

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