フォン・ブラウンにて


 木星にジュピトリスUを送り込む事になった。
 そして、そこに同期のジェフリー・コックランも乗り込む事になっていた。美人の奥さんも一緒だ。
 だから、見送りに来たのだ。俺はコックランとは親しくなかったが、トニーはよく組まされていたので俺はついてきただけだ。
 たまたまフォン・ブラウンに来ていて知ったので、俺たち以外の見送りは親だけだった。
「ジュピトリスUは大きいよな」」
「たしかに」
 本当にでかい。ジュピトリスは実際この眼で見たからその大きさはよく知っていた。
「で、ジェフリーはなんで木星に行くんだ?」
「せっかくの機会だ。行ってみたいって思うだろ?」
「そうか。俺にはわからんが、がんばってこいよ。案外、あれに乗っていくほうが平和を満喫できるかもな」
「そうかなあ」
 気軽にそんなことを言っているが、俺もそう思っていた。
 ネオ・ジオンは降服した。ハマーン・カーンは死んだ。エゥーゴのMSであるΖΖというガンダムに乗ったジュドー・アーシタという少年によって死んだのだ。
 奴らも馬鹿だ。
 せっかくエゥーゴとティターンズの決戦で漁夫の利をしめたのに、今度は奴らの中で分裂して、その隙を突かれたのだ。
 もっとも俺はちまちまと戦っていただけで、いつの間にか終わってしまった。
 なんでもネェル・アーガマが大活躍だったらしい。ジュドー君がいたのがネェル・アーガマである。
 あくまでも聞いた話だ。
 叛乱を起こしたグレミー・トトなる男を倒し、ハマーン・カーンも倒したとのこと。
 でも、俺がいたアウドムラはハヤト・コバヤシ艦長の手によって特攻をかけてなくなってしまった。あの人はいい人だった。惜しい人を亡くしたものだ。
「じゃ、いってくるよ。皆に会ったら伝えておいてくれ」
「わかった。元気でな」
「また会おうぜ」
 どうやら、二人の会話が終わったようだ。
 結局、俺がコックランに送ったはなむけの言葉はこれだけだった。
「帰ってこいよ」
 俺たちの見送りはここまで。
 御両親が来ていたので、コックランはそちらに行ってしまった。
 親との別れを惜しんでいるのだ。
 泣いている母親を父親がなだめている。
 我が子が地球圏を離れるのだ。ああもなるだろう。
「なあ、タケシ。これから、どうなるのかな」
「何が?」
「何がって……世界情勢だよ」
「なるようにしかならないさ」
「でもよ……」
 トニーが心配するように、俺も心配はしている。
 戦争は終わった。でも、平和にはなっていない。
 あの宇宙にあがることを拒んでいたアムロ大尉も上がってきているらしい。
 ぶつぶついいながら、トニーが歩いていってしまった。
 俺はしばらくその場に残った。
 ジュピトリスUに乗る人たちを眺める事にしたのだ。
 どういう理由があって木星に行くのだろう。金にもなるし、ほとんどの人が知らない環境に行く事もできる。
 だとしても、俺は行きたいとは思わない。
 ぼんやりしていると、コックランの他にも見た事のある人がいることに気付いた。
「ブライト・ノア大佐? どうしてこんなところに」
 たしかにブライト大佐だ。
 その大佐がこんなところにいる。知り合いがジュピトリスに乗るのか。
 少し近付く事にした。
 声は聞こえない。でも、近くに少年少女が数人いる。
 その真ん中の少年。一番小さな少女と話しているあの少年は見覚えがある。彼だけではない。周りの子も見た事があるのではないだろうか。
「どこで見たのだ?」
 ちょっと考えてみた。
 思い出せない。
 気のせいか。
 いや、たしかに見た気がする。
 俺にあんな知り合いはいないし、誰かの子でもない。親戚の友人でもない。
 どうでもいいか。
 あんな子供を知っていても何か変わるはずがない。
 待てよ。思い出した。
「ジュドー・アーシタだ。あのΖΖに乗っていたっていう。周りの子はネェル・アーガマのクルー。そうだ。絶対そうだ」
 彼らと話す機会は無いだろう。
 でも、彼らが時代を動かしたのは事実だ。
 あんな少年少女でも大きなことはできるのだ。
 俺は……

   
 

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