ロンデニオンにて
「なんだあれ? どっかでみたことのあるようなないような……」
ここはラー・カイラムのハンガーだ。
ラー・カイラムの艦長はブライト・ノア大佐。ロンド・ベルの旗艦だ。
俺はアムロ・レイ大尉に挨拶をしにきた。
ロンド・ベルに来てから日は経つが、一度も会っていなかったのだ。
「ああ、Ζガンダムだ。色も形も違うが似た感じがする」
目の前のMSを眺めていると、横から声をかけられた。
メカニックだ。
「あれ? あなたは確か……」
「ん、懐かしい顔だな。アストナージか」
「ええ、そうです。えっと……」
どうやら、見覚えはあっても名前は忘れたらしい。
以前と違い、俺は人の名前と顔を覚えることができるようになったのだ。
「タケシ・スズキだ。一度あったことがあるだろ?」
「どうりで。見た事のある人だと思った」
「覚えてないのかよ」
「すいません」
「そんなもんさ。そんなに話をしたわけじゃないんだし」
彼はアーガマでもメカニック、その後、ネェル・アーガマでもメカニックをしていたはずだ。それが、今度はラー・カイラムでもメカニック。
ん? アーガマ、ネェル・アーガマっていえば、ガンダムタイプが載せられていたはず。ってことは……なんてすごい奴なんだ。ガンダムを最も良く知る現場のメカニックってところだな、こいつ。
「それより、アムロ大尉は?」
「リガズィの中に」
アストナージが指したのは、目の前のMS。
「あの機体か?」
「ええ」
「随分と変わった機体だな。俺のジェガンとは大違いだ」
「そりゃまあ」
俺は今、ジェガンというMSに乗っている。
他の部隊ではまだまだ配備されていない新しい機体だ。
操作性も十分だし、機動性もいい。なかなかいい機体なのだ。
しかし、あの程度のMSではアムロ・レイには弱すぎる。
もっと力を発揮できるよう用意した機体がこれなのだろう。
「これ、どうします?」
別のメカニックがアストナージを呼んでいる。
あっちの彼も経験豊富という雰囲気がある。
「ああ、ちょっとまて。それじゃ、失礼します」
いつもメカニックは忙しそうだ。
「大変だな。ああいう変わった機体は運用が面倒だ。量産機のほうがメカニックにとっては楽だよなあ」
前の部隊のメカニックがそう言っていた。
俺はガンダムなんていじりたくないと。
パイロットとしてはガンダムタイプのMSに乗る事はエースの証、憧れでもある。だが、その分相手から狙われる事も多い。腕が無ければ、高価な機体が無駄になっていまうのだ。
俺の腕には量産機が適している。
「それじゃあ、後は頼む」
上から声がする。
「わかりました」
そのリガズィとかいう機体のコックピットから出てきたのは、知った顔。連邦軍で最も有名なパイロット、アムロ・レイ大尉だ。
「アムロ大尉!」
俺は呼んでみた。
彼はさすがに俺のことを覚えていてくれるだろう。そうじゃなきゃ寂しすぎる。何度か同じ部隊で戦ったのに。
「君は……タケシ中尉じゃないか。どうしてこんなところに?」
アムロ大尉が降りてきた。
変わっていない。
少し疲れが見えるが、最近の激務からか皆そうだ。
「どうしてって……ロンド・ベルに異動してきたんですよ」
「そうだったか」
手袋を取り、右手を差し出された。
「それに、もう中尉じゃないですよ」
彼の手を握る。
「ということは、大尉に?」
「ええ、おかげさまで」
「そうなると、無暗に命令できないな」
前もそんな人をこき使うような命令はしない人だった。戦闘中も彼は一人でいるほうが楽そうだった。誰がいたって足手まといになってしまうのだ。
「気にしませんよ。腕は負けてますから」
「そうでもないさ」
謙虚な人だ。本人も腕がぬきんでている事はわかっているはずだ。
しかし、それは自分から言うことじゃないとわかっているのだろう。
「ところで、ネオ・ジオンの動きは?」
大尉は首を横に振るだけだった。
奴らが大規模な軍事行動にでることは明らかだ。
その目標を察知しなければ、後手に回ることになる。そうなっては士気で勝る奴らには勝てない。
士気で劣る我らにとって、時間は特に重要になってくる。
ロンド・ベルの士官たちは皆わかっているだろう。
「どう思っているんです? あのシャア・アズナブルのこと」
アムロ大尉がジオンのシャアと因縁があることは知っている。カラバにいたときもその様子は垣間見れた。
「君も、会った事があるんだな」
「ええ、アウドムラのなかでは一対一で話しましたし、ダカールのときも……。先日、テレビで放送されたのを見て驚きました」
クワトロ・バジーナは軍人であり、現実主義者で、悲観も楽観もしないと俺は感じていたのだ。
それが、いまのシャア・アズナブルは理想を掲げる政治家だ、革命家だ。
「あのクワトロ・バジーナが、こんなことをするとは思いもよらなかったですよ」
「いや、彼ならありえる事さ」
アムロ・レイとシャア・アズナブル。
この二人の間に何があったのかは知らない。ただ、それはあまりにも大きなことが、二人の人生を変えてしまうくらいの何かがあったのだろう。
「勝てますか?」
彼は答えなかった。
しかし、その瞳は語っていた。
「そうだよな。連邦政府はどうであれ、勝手気ままに暴れられるわけにはいかんもんな」