ハンガーにて
ジェガンのコックピット。
いつも思うが、MSのコックピットっていうのは嫌な場所だ。
丸い密室のはずのなのに、外が全部見えている。
シートに座って浮いているように感じる。いつまで経っても違和感がぬぐえない。
ジムのコックピットが懐かしい。同じ丸ならボールのほうが落ち着く。
とはいってもそんな機体で今の戦場に出れるわけないな。
「どうなっているんだ?」
トニーだ。戦闘前で昂ぶっているのかと思っていたが、どうも違う。不安なのだ。
「奴ら、アクシズを落す気なんだよ」
「それはわかってる。そうじゃなくて、和解したんじゃなかったのかってことだよ」
政府は極秘にルナ2を売ったそうだ。
それによって、奴らは武装解除、したはずなのだ。
「するわけないだろ。あいつらは絶対に連邦を許さない」
「この前ので十分だろうに……地球をなんだと思ってんだ!」
「直接言え。俺に言っても無意味だ」
「そうだけどよ……」
ロンド・ベルは後手に回ってしまったのだ。その結果、5thルナは落ちた。それも、チベットのラサ、つまり軍本部のある場所に。
何もできなかった。俺はろくな戦闘すらできなかった。
やりきれない。
今度こそ、止めてやる。
「結局、ロンド・ベルだけなのか?」
「さあな。どこの部隊も自分の持ち場で手一杯なのさ」
「ひどい話だぜ」
宇宙にいる連邦軍はロンド・ベルだけではない。
しかし、どこの艦隊、部隊も動かない。それだけ、今回のネオ・ジオンの動きがスペースノイドに与えている影響が大きいのだ。
担当している場所を離れれば、そこで暴動が起きてしまうかもしれない。
それは建前で、面倒な事に首を突っ込みたくないだけだろう。
軍内部にも当然スペースノイドはいるし、地球を潰そうとしている連中を肯定する一般のスペースノイドなんか少ないはずだ。
コロニー生まれのコロニー育ちだったとしても、地球は母星なのは変わらない。俺はそう思う。
「やるしかないさ。やれることやるしかさ」
「はあ……」
もうすぐだ。もうすぐアクシズにつく。
すぐに戦闘になるだろう。それも退却の許されない作戦だ。
「そういや、皆どうしてるかな?」
突然何のはなしだろうか。
一瞬考えてしまった。
トニーと俺の共通の、皆。
「同期の連中か?」
「うん……」
こいつは相当不安なのだろう。
今はあれこれ考えるのはよくないのだが、コイツにつられてさっきから俺も頭を使いすぎだ。
「さあな。わかるのはベンヤミンとマルティンくらいなもんだ」
「ランディは?」
ランディ・ロバート。俺はロブと呼んでいる。
「会ってない。ティターンズと戦ったあの時以来な……」
行方不明なのだ。アライン・トレイバル少佐、違う、中佐に昇進したらしいからアライン・トレイバル中佐だ。中佐がそう言っていた。
「案外、ネオ・ジオンにいたりしてな」
笑えない冗談だ。
「いや、ないよ。あいつに限ってそんなこと……」
ありえる。
最後に会ったときのあいつの考え方。
あいつは革新を望んでいたのではないか。そうだとすると、あのスペースノイドの多くがシャア・アズナブルのネオ・ジオンを支持するように、あいつもまた……
やめよう。
すべて推測に過ぎない。
アイツは死んだ。あそこで死んだんだ。
ずっと音沙汰無なんだ。きっともう死んでしまったのだ。あの、人の頭を軽快に叩くロブにはもう会えないのだ。
感慨に浸っている場合じゃない。
下手すれば、ロブに会いに行く羽目になる。それはごめんだ。会いたいのは会いたいが、会い方ってものがある。
「時間だ! 始まるぞ!」
オペレータの声。
「二人とも喋りすぎだ。全部聞こえてるぞ」
ジェラルド・マイスナー大尉だ。ソロモンでジム隊だったあの人だ。何の縁か、めぐりめぐって、俺と同じロンド・ベルに来たのだ。そして、俺たち三人はチームだ。
今度こそ、最後にしたい。しなければならない。戦争はもうたくさんだ。
今日、生きて帰ってこれるか全くわからない。いつもそうだった。
それでも。
退けない。
退けないのだ。