メビウスの輪の上にて


 捉えた。
「来た!」
「こんなところで止まっていられるか!」
 俺は必死だ。
 第一次攻撃は失敗に終わった。
 だから、第二次攻撃を仕掛けるているのだ。
 馬鹿正直に正面から突っ込んできた敵機をビームサーベルで叩き切る。
 とにかく早く決める。
 俺たち三人はろくなシュミレーションもしていなかったが、踏んできた場数が違う。
 俺も、トニーも、ジェラルド・マイスナー少尉も一年戦争を知っているんだ。
 敵がどうなのかは知らない。
 気にもしていない。
 自分を信じて、仲間を信じるしかない。
 俺はトニーの後ろに回りこんだ。
 そして、トニーが撃ったのにあわせて、敵を追い込みにかかる。
 真っ向勝負だ。
 敵もそう簡単にやられてくれない。
 だが、俺の攻撃も落すためのものじゃない。とどめはジェラルドがしてくれる。
 実戦はシュミレーターのように上手くはいかない。でも、俺たちは連携できる。
 なぜかは知らない。わからない。わかるはずがない。
 長年の経験が為せる業なのか。
 どうでもいい。
 次だ。
「トニー!」
「大丈夫、ジェラルドは?」
「まだまだ!」
 残った敵を始末する。
 殺すのが目的じゃない。
 止めればいい。動けなくすればいいのだ。
 つまりは、攻撃をあてればいい。
 当てていけばいつかは止まる。
 俺はサーベルをおさめ、ライフルを構える。
 シールドで半身を隠しながらなんていう機能は使わない。
 とにかく捉えた奴を狙って撃つ。
「ジェラルド! そっちだ!」
 俺たち三人とも大尉だ。よくわからんが、増員されたパイロットを寄せ集めたら、大尉が三人で組むことになったのだ。
 形式上俺が小隊長だが、二人もそんなことは気にしていない。
 生き残れればそれでいいのだ。
「やった。次だ!」
 ジェラルドの一撃で敵機は左腕部を打ちぬかれた。
 もう無理だと見たのだろう。すぐに後退していく。
 俺たちの進行方向とはずれている。追わなくていい。
「まだとりつけないか」
「進むしかない。行こう」
 トニーの集中力が落ちてきている。
 戻らせるべきか。
「ああ」
 大丈夫、まだいける。トニーだってベテランだ。気の入れ方抜き方くらいわかっている。
「他の隊はどうなった? わかるか?」
「交戦中だ。援護するか?」
「タケシ、どうする?」
 俺はモニターを見た。
 十分いける距離。
 あの状況。
 いらない。
 俺はそう判断した。
「大丈夫だ。彼らはすぐに追いてくる」
 俺が先頭をいく。
 二人は何も言わずについてきてくれた。
 アクシズのほうに目を凝らしてみた。
 ラー・カイラムだ。
 すでにアクシズに取り付いている。
 もう少しだ。
 アクシズが落ちないとわかれば、ネオ・ジオンも抵抗をやめるだろう。
 あと少し、粘るしかない。
 敵の主力、そして、あのシャア・アズナブルはアムロ大尉がやってくれる。
 新型のガンダムもできたらしいし、彼ならできるはずだ。
 俺たちは少しでも敵をひきつけるのだ。
「正面! また三機」
「いや、その北にも三機」
「まとめて相手をするぞ。一発目で減らす!」
 敵も俺たちに気づく。
 だが、こちらのほうが早かった。
 撃つ。三人で撃つ。
「よし、ヒット!」
 トニーが声を上げた。
 敵の緑色のザクのような機体が爆発した。
 もっと正確に、確実に当てればもっと減らせる。
 ビームライフルをさらに続けて撃った。
 敵の一機が避けきれず、動きが変わった。。
 あの動き、退きながら上に行くつもりだ。
 追うか。
 いや、別の敵を狙おう。
 味方機が退く動きを見せたので驚いたのであろう。それにあわせるようにもう一機も後退をかけようとしている。
 奴らの上部からは、もう三機が接近してきている。
「合流されるぞ!」
 させればいい。
 すれば、奴らは散開して近付いてきた俺たちを囲みにかかる。
「距離をとるぞ!」
 俺は二人にそう指示を出した。
 二人ともすばやく反応した。
 ジェガンのスピードなら、なんとか追いつかれない。
 一度離れてから、次に敵が近付いてくるのに合わせて一機ずつ攻撃を集中させる。
 時間はかかるが、そのほうが確実だ。
 敵は5機だ。
 落ち着いて対処しなくてはならない。
 俺たちが追ってこないのを見てか、奴ら攻撃を仕掛けてきた。
 でも、これなら囲まれる心配は無い。
 敵機の動きを見極めて、俺たちはそれぞれ回避運動をしつつ、二番目に近い機体に目標を定めた。
 最初に撃ったのはジェラルドだった。
 トニーが続く。
 俺は二人が攻撃している間に、さらに位置を変えた。
 一機目と二機目が重なる。
「ここだ!」
 あえてこの瞬間に撃った。
 当然、一機目は簡単に避けた。
 だが、二機目は違う。
 当たらなかった。それでも、二機目の動きがわずかだが止まった。
 その一瞬の間にトニーかジェラルドの攻撃が命中した。
 あと4機。
 やれるか。
 敵の動きがさらに激しくなる。
 その中の一機がジェラルドの下をとっている。
 ジェラルドは攻撃を集中されていて、対処し切れていない。
「おとさせはしない!」
 死なせてたまるか。
 俺は下方から接近しようとしている敵に最大速度で近付く。
 敵の射撃は俺には向いていない。
 近付くのは簡単だ。
 そして、ビームサーベルを用意する。
 距離が詰まった。
 相手も何もできずにやられてはくれない。
 サーベルはあっさり避けられた。
 構わない。
 さらに切りかかる。
 また避けれる。
 敵が何かを手にした。ライフルではない。あれは接近戦用の武器だ。
 とにかく攻撃だ。相手に反撃の隙を与えてはこっちが危険だ。
 当たらない。
「おとなしく、しろ!」
 右手のサーベルではなく、左手のシールドを突き出した。
 このまま押し付けてやる。
 シールドは殴打用の武器ではないが、使えるものは使う。
 俺はシールドに機体を預け、そのまま敵機にぶつけた。
 金属が擦れる音。
 これで、ゼロ距離だ。
 相手の反応は鈍い。
 バルカンを発射させた。打ち続ける。
 頭部に内蔵されているバルカンでは決定的なダメージは与えられない。
 でも、この距離。こっちの頭の前には敵の一つ目の頭がある。
 一瞬で敵の頭部がふっとんだ。
 さらにシールドを押し出し、敵から離れる。
 離れ際にもバルカンを撃ち続けた。
 何十発もの弾丸を一気に叩き込む。
 とどめの一撃はライフルだ。
 これでこいつは終わりだ。
 爆発はしなかったが、戦闘不能だ。ほっとけばいい。
 あと三機。
「ジェラルドーー!」
 トニーの声?
 まさか!
 ジェラルドのほうを見る前に閃光が走った。
「よくも!」
 熱くなってはダメだ。
 わかっていても押さえられない。
「ジェラルドの敵!」
 俺よりトニーの方が早かった。
 ビームライフルを連射しながら、敵機に近付く。あの敵は別のところから来た。援護が来たのか。
 トニーとその新しい敵。どっちも速い。
 だが、俺にトニーを見ている余裕はなかった。
 俺のジェガンのすぐ側をビームが走っていった。
 機体の動きを止めてはいけない。
 自動回避行動がなかったら、やられていた。
 凍る背筋はもうない。こんなこともう慣れっこだ。
「まさか、三機が相手か?」
 すれすれのところを通っていくビームの数が多い。こいつらのビーム兵器はライフルじゃない。短いビームが短い間隔で飛んでくるのだ。
 それにしても多すぎる。
 残りの三機全てが俺を狙っているのか。
 もたない。
 なら、一機でも多く落すだけだ。少しでも攻撃を当たるだけだ。
 死にたくないし、死ぬ気もない。
 でも、退かない。
 避けて避けて避け続ける。
 何度でも避けてやる。
 少しずつ、避けながら距離を詰める。
 相手もそれをわかっている。一定の距離を保とうとしている。
 動き回りやがって。ちょっとは止まれよ。
 敵には無駄な動きが多いのに、三機もいれば近づけない。
 反撃する暇もない。
「そっちか!」
 すんでのところをシールドで受け止める。
 緑の敵機のうちの一機が射撃を止めた。
 何か飛んでくる。
 ミサイルか何かか。
 このタイミングで撃ってくるということは、マシンガンのエネルギー切れか。
 俺たちと交戦するまでにどれだけ撃っていたか知らないが、残りの二機も切れるはず。
 そうなれば、短時間だとしても攻撃が薄くなる。
「くそっ!」
 被弾した。
 左脚部の先が撃ち抜かれた。
 運がいい。脚で良かった。
 だが、バランスが崩れる。
「ぬう」
 必死にバランスを保とうとするが、敵の攻撃を避けながらでは上手くはいかない。
 さらに右脚の大腿部に敵のビームが当たる。
 まずい。
 これじゃあ、避けるのも辛くなってしまう。
 俺は足を押し込み、腕を引っ張りと懸命に操作した。
 何とか復帰できた。でも次はない。
 そのとき、一機のマシンガンが止まった。
 ここだ。
 俺は腕と足を押し込んだ。
 近付けば、他の連中も打ってはこれない。
 さっきの奴と同じミサイルが飛んできた。
 シールドで受ける。たぶんこれでシールドは潰れてしまうが、構うものか。
 ミサイルの爆発でシールドが砕け散る。
 それでも近付く。
 敵の右腕の先が光っている。ビームサーベルじゃない、斧型の武器だ。
 俺の方が速い。
 シールドがなくなってあいた左にビームサーベルを用意している。
 接近戦用のビーム兵器がぶつかり合う。
 光った。強烈な光だ。
 サーベルだけが武器じゃない。
 バルカンもあれば、右手にはライフルもある。
 ビームサーベルを持った左腕が横に流れた。
「そこで黙ってろ!」
 頭部のバルカンと右手のライフルを同時に放った。
 今度も至近距離だ。
 耐えられるはずがない。
「炉ごと吹っ飛ぶなよ」
 そうなれば、俺もただではすまない。
 小さな爆発だけだ。コックピットも無傷だろう。
 でも、もう動かない。
「まだ残っている!」
 俺は左手のサーベルを戻した。
 そして、その左手で動かなくなった敵MSの腕を掴む。
 下と後ろからの攻撃は止んでいない。
 だから、こいつを使う。
 MSを掴んだまま、機体を回す。
 タイミングよく放せば、この敵機が向こうに飛んで、俺は反対に飛んでいく。
 上手くいった。
 仲間の機体には攻撃をしなかった。おかげで俺は奴らと距離を取れた。
 正直、無理だ。
 これ以上相手をする事はできそうもない。
 トニーに援護を頼みたかったが、俺の視界の端っこでまだ一対一の熾烈な闘いを繰り広げているようだ。
 シールドもなけりゃ、ライフルも残り一発だろう。バルカンも弾切れか。
「使いすぎたかな」
 あの二機はまだ俺をやる気だ。
 またサーベルで突っ込むか。
 それくらいしか方法が残っていない。
 もう近づけないだろう。
 俺は計器に目を走らせた。
 推進剤はまだ残りがある。
 しつこい二機とは距離ができた。
 むしろ、トニーの方が近い。
 向こうに行けば、敵を二機連れて行くことになる。
 打つ手なし。
 また二機がこっちに攻撃を始めた。
 距離がまだあるのでそうそう当たりはしない。
 俺はライフルを捨てた。
 その捨てた先を見ると、何かある。
 ジェガン標準装備のライフルもある。
 気付けば、近くにはどこかでやられて漂ってきたジェガンがあった。
 コックピットが開いている。誰も乗っていない。
 いや、この武器なら使える。
 ライフルに腕を伸ばした。
 取れた。
 オンラインになる。
 撃てる。4発ほどだが。
 二機は慎重に近付いてきている。向こうも弾切れが怖いのだろう。これだけ戦闘が長引けばそうもなる。
 あと一匹落せば、退いてくれるかもしれない。
 わずかな望みだ。
「あれは、アクシズが割れた?」
 アクシズが割れていく。
 ラー・カイラムがやったのだ。
 それに敵も気付いたのか。動きが変わった。
 退くのか?
 いや、戸惑っている。
 目の前の戦闘から目をそむけるとは。
 俺は撃った。四発ともまとめて撃った。
 敵一機は回避運動もとらなかった。
 きれいに二発とも当たった。凄まじい爆発を引き起こした。
 もう一機はあっさりとかわしている。
 ここまでか。
 いや、何か近付いてくる。
「タケシ!」
 トニーだ。
「大丈夫か?」
「無理だ。これ以上戦えない」
 残った一機が退いていく。
「どうする?」
「お前はアクシズに。俺はここいらで待ってるよ」
「それはできない」
「あれ見ろよ。割れてどこかへ飛んでいくはずのアクシズがまだ地球に向かっている」
 モニターの映像を見る限り、アクシズは地球に向かっている。作戦は失敗したのか。
 質量は減っただろう。それでもあれだけのものが落ちれば被害は甚大だ。
 ここまできて、最後はこれか。
「ああ」
 トニーもよくわかっているのだろう。
 最悪の結果ではないが、悪い結果だ。
「いって来い。何かできることがあるかもしれない」
「でもよ」
 無いと言いたげだ。
 俺もそう思う。
「こっちはまだ推進剤は残っているし、派手にやられたのは脚だけだ。どこかの艦が近くに来たら、自力で帰るよ」
 俺はここでアクシズが地球に落ちていくのを見る。
 トニーにはもっと間近で見てきて欲しい。
「わかった。じゃあ、行って来る」
「気をつけろ」
 ジェガンが離れていく。
 俺のと違って綺麗なもんだ。
「ん? あれは艦隊か。ネオ・ジオンじゃなさそうだから、ようやく連邦の援軍がきたのか」
 今の今まで気付かなかった。
 どうやら少し前からぞくぞくと援軍が集まってきていたのだ。
 これなら俺も助かるな。
 俺はメットのバイザーを上げた。
 空気漏れはないようだし、ノーマルスーツも正常に働いている。
 一息つこう。
 誰かがくるのを待った。
 地球は美しい。
 あれだけ汚染が進んでも、宇宙から見る地球は見事だ。
 アクシズが落ちれば、地球はどうなってしまうのだろうか。
 美しい地球は美しくなくなるのだろうか。
 人は小さいな。
 MSのコックピットは前面がモニターになっているので、自分がまるで椅子に座りながら宇宙を漂うような感覚になる。
 ぼんやりとアクシズと地球を眺めた。
「変だな。何か光っているような気がする」
 ゆらゆらと光っている。何とも言えない緑っぽいような光だ。
 どんどん光は強く大きくなっていった。
 そして、アクシズは……

   
 

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