彼女、朝倉和美は自分のメモ帳を見ながら眉をひそめていた。
 そこに書いてあるのは、ある男子生徒に対する証言だ。


健介君は一般生徒です。外伝三
麻帆良の勘違いする人々その2



 教師N.S君の証言
「えっ、健介さんですか?
 そうですね。彼は一言で言えばすごい人です。
 マスターと互角以上の力を持ちながら、それを驕ることなくいつも飄々として……
 本当は健介さんにも戦い方を教わろうとしたんですけど、自分はお前が思っているほど強くないなんて、謙遜してました。
 それに、一見冷たそうに見えるんですけど、実は情に厚いところがあります。
 修学旅行の時は、自分が足でまといと分かるや否や、負担にならないように自らを犠牲にしようとしてましたから」


 生徒A.Kさんの証言
「ああ、健介さん?
 なんで、そんなこと聞いてるの?
 まあ、いいっかあ。
 そうねえ、あの人程、人間見た目で判断してはいけないっていう人いないわよ。
 纏っている雰囲気が見るからに普通って感じなのに、すごい拳法の使い手らしいし。
 えっ?
 拳法の名前?
 なんだったかしら、確か何とかコマンドーと言ってたけど。
 答えになってないって?
 しょうがないでしょ! 覚えてないんだから! バカレッドっていうなああぁぁぁぁ!」


 生徒E.A.K.Mさんの証言
「あの男について聞きたいだと?
 ふん、忠告しておくが、あまりあの男に近づかない方かいいぞ。
 いいか、見た目にだまされるな。あいつは弱そうに振舞っているが、その実力は折り紙つきだ。
 極めつけに性格も悪い。
 初めに会った時など、さんざん私をおちょくりおって!
 誰が桜通りの変質者だ! しかも、齢300歳を超える私に向かって幼女だと!
 何が、将来があるだ! 生まれてこの方、私をここまでコケにしたのはナギとあいつ位しかいない」


 生徒S.Sさんの証言
「健介さん…ですか?
 そうですね。あの人は私なんかが敵わないほど強い人だ。
 彼の実力の一端を垣間見た時があるんですが、すごい動きでした。
 いえ、別に跳んだり跳ねたりしたわけではありません。
 ただ、動きがすごく自然だったんです。
 武術というのは、達人になればなるほどその動きは自然体に近くなります。
 彼の動きはその観点から言うなれば、究極の極みですね」


 使い魔K君の証言
「健介のだんなぁ?
 そうっすねぇ、あの人はきっと心に沢山の傷を持っているとオレッちは見てるっすけど。
 きっとSSW時代に沢山の仲間を失ったんじゃねえかな。
 えっ?
 ああ、SSWっていうのはSilent Sword of Waft(静かなる一陣の風の刃)の略称で、魔法使いの諜報組織のことでえ。
 まあ、あの人が俺達との間に距離を置こうとしているのは、そこんところが原因じゃねえかな。
 大切なものができなければ、傷つかないってもんよ。
 まったく、難儀な人だ」


「証言は沢山取れたのに、いまいち掴めないなぁ」
 そこまで読んだところで、朝倉は誰に話しかけるでもなく呟いた。
 これらの話を総合して構成される奥村健介という人物は次の通りになる。
 冷たそうだが情に脆く、性格が悪くて心に傷を負い、周りと自分との間に壁を作っている、すごい拳法の使い手。
 具体的ではあるが、想像するのが難しい人物像である。
 そこで、彼女は実際に見たときの彼の様子を思い出してみた。
 朝倉は一応、彼とは面識がある。修学旅行の時にほんの少しの間だけだったが。
 その時に感じた朝倉の印象としては無口な人というイメージだったのだが。
 そうすると、使い魔Kの証言が彼女のイメージに一番合うかもしれない。
「やっぱり、本人に取材するしかないかなぁ」 すこし考えた後、朝倉は再び呟いた。
 百聞は一見にしかずという言葉にしたがい、彼女がカメラに手をかけ出かけるのはそれから十分後のことだった。

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