どんな仕事にでも、だいたい休みというものはある。ジャスティン達のバーでも定期的な休みが設けられており、今日はそれらの内の一つであった。ジャスティン達に礼をする日は今日辺りがちょうどいいのだろう。俺は瑞樹と示し合わせ、本日パーティーを開くことにしたのだ。

 健介君は一般生徒です。外伝 新たなる発足(後編)

 それは店の休みの日のことだった。その日の晩、飯の前にアニキとアネさんは俺達に渡したいものがあると言ったのだ。何のことか分からずに、俺は隣のジャックを見る。その視線に奴はさあと肩をすくめるだけだ。そこに差し出されるのは八本のアイアンナイフ。アニキはそれを差し出してただ一言「受け取ってくれ」とだけ言った。
 素直に俺達はそれを受け取るが、これはどうして渡されたのだろうか? アニキの意図が読めない。それは一重にアニキの口数の少なさが原因だろう。アニキが饒舌に話している姿をあまり見たことがない。例外はアネさんと話しているときくらいだろうか。アニキはその歳に見合わず、とても落ち着いている。代わりに良くしゃべるのは妹の方のアネさんだ。今回も彼女はアニキの言葉が足りないのを注意しているのだろう。旧世界の言葉でなにやらまくし立てている。
『ちょっと、兄貴それで終わりなの?
 もっとこれまでのお礼だとか、ちゃんといいなさいよ』
『言いたいんだけど、俺はお前と違ってまだこっちの言葉を覚え切れていないんだよ』
「うおおおお」
 そんな二人の会話に水を差すように、ジャックの奴が声をあげた。自然と視線はジャックに集まる。
「ほ、本当にこれを貰ってもいいんですか?」
 驚愕の顔で詰め寄るジャックにアニキは短く受け取って欲しいとだけ答えた。しかし、ジャックは何に驚いているのだろうか。しかし、それも少しのこと、ここに居る誰もがジャック言葉に次の瞬間驚愕した。
「で、でもこれはハイミスリルじゃないっすか」
 ハイミスリル? 馬鹿な!
 俺は思わず自分の握ったナイフを見た。
 ハイミスリル。それは伝説の鍛冶師イーミアだけが作れたとされるミスリルを超える金属だ。一見、鉄のように見えるが性能は天と地との差があり、最も優れた魔法金属とも言われている。ジャックの鑑定眼は俺達の中で随一、ならばそれは間違いないだろう。ということはそんなすごいナイフの柄に刻んである不思議な文字も、何か性能的な意味を持っているのだろうか?
 それに対する答えはアニキの口から出た言葉だった。「その柄には俺の国の言葉で数字が刻まれている」と。
 俺が握っているナイフに刻まれているのが二、ジャックのが三らしい。一はアネさんが持っているのだとか。
 だがしかし、つまりそれは、それが意味することは……
 ここまで聞いてアニキが何を思って俺達にナイフを渡したのか分かった。伝説の魔法金属で作られたナイフにそこに刻まれた数字。これが意味することは一つしかない。アニキはあの伝説の組織SSWの新たなる長官だ。そのアニキがこんなものを渡すのは俺達をSSWとして迎えると言っているに他ならない。恐らくこれは新たなるSSWを示す兵装なのだろう。
 俺は周りにいる仲間たちを見渡す。俺の視線に皆大きく頷いた。
「アニキ、ありがとうございます。
 一生ついていきます」
 この日が後に知られる第二期SSWのメンバーがそろった日だった。


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