ヘイ、ブラザー。ひさしぶりだな。
毎度突然で悪いのだが、俺は結構憂鬱だったりする。
え、何がって?
修学旅行だよ。修学旅行。
俺は高校二年生。この時期になると当たり前だが、修学旅行がある。
なんで中学のときは三年だったのに、高校は二年で修学旅行にいくのかなという疑問はあるが、憂鬱な理由はそれじゃあない。
問題はその旅行先だ。
なぜだか知らないが、我らが二年四組は京都への旅が決まってしまった。
別に京都は嫌いではない。しかしだ。そこは中三のときに修学旅行で行ったんだよ。
俺は多数決のときに北海道に手を上げたんだぜ。
というか、投票数では北海道が一番多かった気がする。
だが、問題が起きた。それはうちの担任だ。
初めに言おう。うちの担任は変わっている。
まずおかしいのはロシア帰りのタイ人だという事だ。
そんなんがなんで日本で教師なんぞやっているかというと、ロシアで出会った日本の伝統芸能に興味をもったかららしい。
ちょっと待て。
ロシアで日本の伝統芸能に会うのは百歩譲ってもよしとしよう。タイ人が日本の文化に興味を持つのはすばらしいことだろう。
しかし、それならなんで日本で教師なんてもんをする必要がある。
どう考えてもおかしいだろ。
いや、すまない。つい感情的になってしまったようだ。
だが、ここまで言ったら分かるだろう。
修学旅行の行き先は、担任の横暴で決まったんだ。
健介君は一般生徒です。第三話
走り続ける新幹線の乗車口で俺は今二十歳未満は吸ってはいけない物品を吸おうとしている。
物品とはタバコと言う奴だ。
健介という名前が示すように健康を第一に考える俺がなんでこんなものを吸おうと考えているかというと、それを説明するには今朝まで遡る事となるだろう。
今朝、集合場所に現れた俺はひどく疲れていた。理由は寝不足だ。
しかしそれは修学旅行を楽しみにしすぎて眠れなかったというような小学生みたいな理由ではない。
最近変なモノを目撃しすぎて精神的疲労がたまっているからだ。
今朝、疲れてる表情の俺に悪友がその理由を訪ねてくるので、そうぼやいたら渡されたのがこのタバコだった。
どうして未成年の貴様が持っているんだとか思ったりもしたんだが、ものは試しと吸ってみることにした。
ポケットから箱を出し、火をつけるためにライターを用意する。
えっ?
いくら人が来ないからといって、そんなに堂々とタバコを吸おうとしていいのかって?
はっはっは。大丈夫さ。
なんせ、これを勧めた悪友が「ここなら絶対大丈夫」とか言っていたし。
どうやら先生が電車を見回ることは決まっているのだが、それは時間ごとでありここには後一時間来ないらしいのだ。
そんなことどうやって調べたか知りたかったが、教えてくれそうにもなかったので気にしないことにしよう。
しかし、そろそろ自分の席を離れて三十分経つな。まだ一本も吸っていないというのに。
電車の窓から見える風景がいけないんだ。普段と違う景色に魅入ってしまうのも仕方がないだろう。 これ以上席を離れては他の奴に修学旅行当日に腹を壊してトイレに篭もっていると思われかねん。
とりあえず、1本だけ試したらさっさと自分の席にもどるか。
俺はそう思い、タバコにをつけた。すると突然、そこに木刀を持った少女が現れた。
修学旅行に向かっているのになぜ木刀?
普通はお土産だろと思ったのは秘密だが、それよりも問題なのは彼女がうちの学園の中等部の制服を来ているとうことだ。
そういえば今回の京都行きは中等部のどこかのクラスと合同だって聞いていた様な気がする。
ヤバイ、他の教師にチクられる。
なんだか一瞬心臓が跳ねたような気がした。しかし驚いたのは相手も同じだったようだ。木刀少女は驚いた表情でこちらを見ている。
そりゃあ、こんなところで同じ学園の先輩がタバコを堂々と吸っているなんて思わないよな。
さて、どうやってこのことを黙っていてもらおう。
そう思案するのだが、慌てた心では答えなんてそうそうでない。
ここは一つあれだ。タバコを吸って心を落ち着かせようと手を動かせば、タバコの灰が地面へと落ちてしまう。
やばい、そう思って下をみるのだが、そこにはなぜか一通の手紙があった。
「それは!」
不審に思って拾い上げると少女が声を上げた。これは木刀少女の者なのか?
そう思って顔を上げれば、木刀を構える少女の姿って、なんで木刀がいつの間にか真剣になっているんだよ。
これはあれか。この少女にとってすごく大事な手紙だったのか?
ま、まさかラブレター?
修学旅行といえば生徒の心が開放される日。日常とは違う状況になれば勇気を出せるかもしれないとの思いからがんばって想いを綴ったのだろう。
すまない木刀少女よ。そんな大事な手紙だとは思っていなかったのだ。
だから頼む。
お願いだから……その剣を今すぐしまってくれ!
彼女の剣は今にも振り下ろされそうだった。
彼女も必死なのだろうが、俺も必死だ。
いや、死が近いという意味では俺の方が必死なのだろう。
「これを…」
こういう場合は言葉を余り言わない方がいい。言い訳のごとくしゃべり続ければ、余計に相手の反感をかってしまうことだろう。
相手が感情的になっているときこそ、こちらが感情的にはなってはいけないのだ。
すると俺の思いが通じたのだろう。彼女は未だにこちらを警戒しているようなのだが、剣を鞘に戻し、おとなしく手紙を受け取ってくれた。
「じゃあな」
俺は悪友が貸してくれた携帯灰皿にタバコを入れた後、最後に一言そう言って、自分の席へと戻るために歩き始める。
もし、失恋しても俺に八つ当たりをしないでくれと思いながら。
愛刀の夕凪を持って私は走っていた。
目指すは妨害作業を行っている関西呪術協会の過激派だ。
魔法の発動を捕らえたのはついさっきのこと。私達のいた車両には大量の蛙があふれ返すこととなった。
お嬢様。必ずお守りいたします。
幼き日に誓った思いを胸に、術者を倒すために魔力の流れを読み取り新幹線の後部車両へと走ってけば、そこにいたのは一人の麻帆良学園男子高等部の制服に身を包んだ男性だった。
まさか、こいつが?
私はそう思い立ち止まると相手の気配を探るがどうやら違うらしい。
その男からは一欠けらの魔力も感じられなかった。
無駄な時間をすごした。はやく術者を見つけなくては。
私はそう思い、再び走り出そうとするのだが、その時敵の式神らしきツバメが後方から飛び込んでくる。
その口に咥えられているのはネギ先生に託された親書。
まずい。
私は急いでそれを斬ろうとするが、男に気を取られていたからだろう。
とっさに剣を抜くことができなかった。
私は慌てて追いかけようとしたが、その足はすぐに止められることとなる。
なぜなら、 ボワッ 一瞬ににてツバメが燃え上がったためだ。
式神はもとが紙という性質上、戦闘用でもない限り火に弱い。
それを見越してなのだろう。目の前にいた男は自分の横を通り過ぎる式神にタバコの灰をかぶせそれを燃やしてしまったのだ。
予備動作もない、偶然が重なったのではないかと錯覚させるような鮮やかな動きで式神を葬ってしまうその姿に私は戦慄を覚えた。
男は何事も無かったかのように床に落ちた手紙を拾う。
「それは!」
思わず声が出た。それと同時にあることを思い出して私ははっとする。
いつこの男が仲間だと思ったのだろうと。
確かにこいつは敵の放った式神を葬った。しかし敵の敵が味方とは限らないのは私達の世界の常識だ。
こいつもお嬢様を狙う刺客なのかもしれない。
そう思い、私は夕凪を抜いた。
相手の強さは未知数。いや、おそらく私より確実にこの男の方が強いのだろう。
達人は達人になるほど自然体になるものだと聞く。
少しでも気を抜けば、一般人と間違えてしまうほどの自然体であるこの男は一体どれ程の技量を隠し持っているというのか。
事実、私が抜刀しているのにも関らず、奴はピクリとも反応せずに何気ない姿で手紙を見ている。
状況としては圧倒的に有利なはずである私に対してそれだけの余裕をこいつは持っているのだ。
男は静かに顔を上げ私を見た。私は警戒を強める。
相手のその表情からは何を考えているのかまったくもって分からない。
相手の手が動く。来るかと思い刀を握る手を強めるが、男がしたことは無造作に手紙を突き出すという事だけだった。
なに?
相手の意図が分からず思わず声を上げそうになる。
しかし、相手はそれすらも気にしない風体で手紙を突き出すだけだ。
敵ではないのだろうか?
そんな疑問が私の中で生まれる。
もし味方だったとするならば私のこの対応はずいぶんと失礼なものであろう。
私は警戒を緩めずに夕凪を鞘にしまうと手紙を受け取った。
男はそれを確認すると扉の向こうへ消えていく。
私はネギ先生が来るまでの間、呆然と彼の消えていった扉を見つめていた。