ヘイ、ブラザーひさしぶりだな。元気か?
俺の方は最近いろんなことが起こりすぎて少し参っているところだ。
しかし、今は修学旅行の途中だ。
こういう行事は楽しんだもの勝ち。せいぜい元気に行きたいと思っている。
突然だが、今日は修学旅行の三日目だ。だが、今俺はこの修学旅行において最大のピンチを迎えていた。
なんせ、山の中で一人迷子になっているんだからな。
誰だ! 名水を探そうなんて言って山の中に踏み込んだ班員は。
健介君は一般生徒です。第四話
ことの起こりは今から一時間前に前にまで遡る。
誰が言ったのか今になってはもう分からないがお茶を飲みたいといった奴がいた。
だったらうまい茶っ葉と水が必要だなとまた別の奴が言う。
すると三人目はいいお茶は高くて買えないけど、水だったら沸いているんじゃないかと言ったのだ。
しかし、そこは修学旅行中の異常なテンションがあったのだろう。
四人目がだったら汲みに行くかと言った言葉はすんなりと通ってしまった。
それから名水を求めて山を歩くこと数十分。なかなか見つからない水に対して手分けして探そうという奴が出てくる。
いいかげんうんざりしていた俺達はまともな思考をめぐらせぬままそれに賛成した。
四方八方に分かれる班員達。連絡は携帯でとろうと決めたのだが、よく考えてみれば山の中で電波が届くわけねえよな。
くそ、道が分からん。焦る心を落ち着かせながら歩き続けるが、一向に山を出れない。
いいかげん疲れて地面に座ると役立たずの携帯に俺は目をやった。
携帯の時計は無常にも時間が過ぎるのを告げてくる。
「ああ、くそ」
思わず毒づくが状況は変わらない。しかしそこで俺の耳は水が流れる音を拾うこととなる。
川の下流には必ず人がいるはず。助かったと思いそちらへ向かえば、きれいな小川が目の前に広がっている。
その先にあるのは石畳で出来た道。
おそらくその道を通れば街に出られることだろうが、俺の目には小川のほとりに先客が三名がいることを捕らえることとなる。
その内二名は知っていた。
OK逃げよう。
その二名とは以前幼女とロボと対立していた子供とツインテールの少女だ。
また厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだ。ここはなんとしてもここを離れるべきであろう。
しかし、そういう時に限って足元に何かが落ちているのがお約束というものらしい。
俺の足はそこにあった小枝を踏みつけていた。
パキリという音が周囲に響く。
その瞬間俺に刺さるのは三つの視線。
はっはっは、そんなに見つめるなら見物料をとらせてもらうぞ?
「あー、あんた!」
一番最初にツインテールがしゃべる。
おい、お前。人を指差してはいけないって言われなかったか?
最近の子供はしつけがなっていないというのは本当らしい。
次にしゃべるのは少年だ。
彼は最初横になっていたのだが、俺の姿を見ると立ち上がり、側にいた髪を後で結んでいる少女の「誰ですか」という視線に気付くと「あの人は、幻の拳法の使い手なんです」と説明する。
しかし、なんだその幻の拳法ってのは。
俺はそんな風に名乗った覚えは…
ありました。いや、俺がそう名乗ったわけじゃないんだが、あの幼女と二回目に会った時にそんな風になったような気がする。
「アニキ、それよりも気をつけろ。
こんなとこに現れるなんて、ひょっとしたらあいつは呪術協会のスパイかもしれねえぜ」
呪術協会ってなに?
そう疑問符が浮かぶのだが、それよりも問題はこっちだろう。
今誰がしゃべったんだ?
注意深く観察してみるが、誰の声かはさっぱり分からん。
「そ、そうかな」
「そうっすよ」
少年が確かめるように聞くと再び聞こえるのはさっきの声。
ってオコジョがしゃべってるー! あれか腹話術か?
一刻堂か?
少年やったな。その年でそれだけ出来れば芸人で食っていけるぞ。
はっはっは。
……分かってる。何も言わないでくれ。
現実逃避なのは分かっているんだ。
しかし楽観主義しゃな俺でも、十七年間で積み上げてきた現実感が崩れるのは痛いんだよ。
「はあ」
俺はため息をつくとその場にしゃがみこんだ。
めちゃくちゃ独りで人生について考えたい気分だ。
本当にそっとしといてほしい。
「あの、敵じゃないなら名前を教えてくれませんか?」
今の俺に話しかけないでくれ。
少年は話しかけてくるが俺は無視をする。
「え、えっと、敵じゃないなら名前を教えてくれませんか?」
だからそっとしといてくれっつうの!
「答えないというは、やっぱりてめぇ西の刺客だな!」
「うっせいな。さっきからなんだ」
少しは感傷に浸らせてくれたっていいだろ!
「え、いや、名前を…」
「名前? 奥村健介だ。
それがどうした」
強く少年に当たってしまうが、それは仕方ないはずだ。
文句があるなら相手になんぞ。全国のショタやろう。
ごめんなさい嘘です。
「え、えっと、健介さん」
もう名乗っただろう。まだなんかあるのか?
「あなたは関西呪術協会の人ですか?」
関西呪術協会?
そんなところに属したことなんてねぇぞ。
あるのはSSWだけだ。
「えー!」
俺が心の中で独りごちるとそこで少年がいきなり驚きの声を上げた。
って何?
俺、今口に出して言ってた?
覚えていないが、少年の様子を見るとそうなのだろう。
しかし、SSWに反応するとは君もかなりのオーフェン通だな。
SSWとは『死んだ魚でレスリング』の略で、魔術士オーフェン無謀編に登場する魚を武器にして闘う集団、もしくはその格闘技のことをさす言葉だ。
だが、それ故に少年が驚くのも無理が無いのかもしれない。普通そんなことを本気でやろうと思う奴いねえからな。
オーフェンの小説を読んだあとネタで友達と共に結成しやってみたんだが、魚を武器にしても生臭くなるだけだった。
結成されたその日のうちに解散されたことは言うまでもない。
しかし、少年。君もオーフェンの小説を読んでいるのか?
なんだか君が少し近くに感じれたぞ。遠くにいてほしいが……
だが、俺の気持ちなんて何のその。少年は俺を無視した感じで他の二人と盛り上がっている。
この隙にどっか行くか?
そんなことを思っていると別のご一行がやってくる。
「おーい、アスナー」
どうやらツインテールの友達らしい。まあ、そこまではいいとしよう。
なにやら友達どうしで話し合っているのもかまわない。
しかしだ。
「それじゃあ、しゅっぱーつ」
「?
健介さん。どうしましたか?」
少年よ。気付いた時にはどうしてお兄さんがいつのまにかお前達と行動を共にしないといけない空気になっているのか説明してくれないか?
もの音と共に現れたのはどこかで見たことのある人物だった。
「あー、あんた!」
それが誰かと思い出した時に私は思わず声をあげる。
間違いない。こいつは前にエヴァちゃんと闘ったときに現れた男だ。
あの時はいつの間にか消えてしまったけど。エヴァちゃんの言うにはこいつはとんでもない人物らしく、なんとかコマンドーという幻の拳法の使い手なのだそうだ。
だけど私はそれが何かの間違いじゃないかって思っている。
だってこの人はうちのクラスのみんなと比べてみても、とてつもなく普通に見えるもの。
私がそんなことを思っているとエロオコジョが西の刺客じゃないのかなんて騒ぎ始めた。
ネギは初め「そうかなー」と言っていたが結局はそれを確かめるために結局は本屋ちゃんのアーティファクトの力を借りることとなった。
本屋ちゃんのアーティファクトには人の心を読むという力がある。
これの前には隠し事なんて出来ないだろう。もっとも、それを使うためには相手の名前を知らないといけないのだが。
「敵じゃないなら名前を教えてくれませんか?」
ネギは男に名前を聞くが相手は無視をする。
聞こえなかったのかともう一度言うが結果は同じだ。
「答えないというは、やっぱりてめぇ西の刺客だな!」
いっこうに返事をしないそいつにカモが声を上げれば、そいつはいらだった声で答えを返す。
ぼーっとでもしていたのだろうか。
やがてそいつはネギに問われると奥村健介と言う名前を名乗った。
本屋ちゃんのアーティファクトの発動だ。
彼女が「あなたは関西呪術協会の人ですか?」と聞けば絵本に彼の思っていることが現れる。
『関西呪術協会?
そんなところに属したことなんてねぇぞ。
あるのはSSWだけだ』
どうやら敵ではないらしいが、SSWとはなんだろうか。
私は知らないのだが、どうやらネギには心あたりがあったようだ。
驚きの声を上げるネギを本屋ちゃんと二人して見る。
「ちょっと、SSWって何なの?」
「え、えっとSSWっていうのはSilent Sword of Waft(静かなる一陣の風の刃)の略称で、魔法使いの諜報組織の名前です。
その実力は折り紙つきで、誰も彼らの素顔を知らないとか」
ネギの説明を聞きながら私は驚く。どうやらあいつは本当にとんでもない人物だったらしい。
私はエヴァちゃんを疑ったことを心の中でそっと謝った。