ヘイ、ブラザーひさしぶりだな。元気か?
 俺の方の気分は最悪さ。
 毎度突然で悪いのだが、俺は今麻帆良学園の中央広場にいる。
 今日は学園祭初日。午後から真由美さんが来てくれることとなっているので、本当はうれしいはずなのだが、現状は早くこの場所から逃げ出したかった。


健介君は一般生徒です。第八話


 俺のクラスは無難にも喫茶店を出すことが決定した。
 店の準備も整い、その宣伝のために二人で中央広場へと来ているのだが、問題はその相方だ。
 いや、俺はこの男を相方と呼びたくない。
 そう呼んでしまったら、勘違いした相手にやられそうな気がするからだ。
 え?
 分かりにくいって?
 ならば、もっと分かりやすく言おう。
 あいつは俺のケツを狙っている。
 はじめは俺の勘違いだと思ったさ。
 というか、勘違いであってほしいと思ったのが現実か。
 しかし、あいつのその視線が、俺に対する動作が、その考えを否定したのだ。
 間違いない。こいつはホモだ。ゲイだ。
 そして……
 その対象は俺だ。
 ここ、麻帆良学園の中央広場には不吉な噂がある。
 曰く。ここで告白をすれば100%成功するらしい。
 はっきり言おう。今の俺にとってこれほど恐怖に身をすくめる場所はない。
 今までもいろいろあったような気がするが、これは極め付けだろう。
 もちろん、その告白云々というものがただの噂という可能性がある。
 しかし、俺はそれを否定する人物を数人知っている。知ってしまっている。
 気になるのは先ほどからの奴の視線だ。
 何か機会を狙っているとしか思えないその視線はなんだ?
 思わず背中がぞっとする。
 くっ、今の俺にうつことが出来る手は二つしかない。
 一つはこの場よりすばやく離脱することだが、それでは今後も付きまとわれる可能性が大きい。
 ここは禍根を断つためにもう一つの手しかないだろう。
 そう、告白される前に断るしか。
 まずはどう言うかが問題だな。
 簡潔にすべきか、遠まわしに言うべきか。
 しばらく考えてみるが、簡潔にすべきだと決断を下すことにする。
 遠まわしにして伝わらなかったときが怖いからだ。
 言うべき言葉を考え、心を落ち着かせるために相手から距離をおくために一歩前に出る。
 そして、遠くの景色を見て言うべき言葉を確かめるように唇を動かした。
 よし、この通りに言えば大丈夫だ。
 俺は覚悟を決め、振り返る。
 するとそこには、奴が倒れていた。
 はい?
 どういうことが起こったのか分からず、一瞬躊躇する。周りの人たちも急に人が倒れてビックリだ。
 が相手が倒れているなら、することは一つしかないだろう。
 これは人として当然の選択だ。
 俺は一切の躊躇いも無くそいつを置いて、そこから離脱した。



 世界中のパトロ−ルのために銃を構え私は広場を監視していた。
 ファインダーごしに覗いた人々の顔はどれも幸せそうで、自分がひどく場違いに思えた。
 らしくない感傷だ。そう思い自笑する。
 余分な方に思考が流れようとするが、それを引き止め、気を取り直す。
 いけない。今は監視に集中しなくては。
 報酬を貰っている以上、仕事はきっちりする。それが私のスタンスなのだから。
 ピピピピピ
 その時、学園側より渡された端末から、けたたましい音が鳴る。
 早速告白生徒が出たようだ。
 相手を確かめるために私は中央広場に目を向けた。
 男の二人連れだが、最近では同性に告白することも珍しいことではない。
 私は相手に狙いをつけ、引き金を引こうとするが、それは寸前で止められた。
 片方が知った顔だったからだ。
 確か名前は奥村健介といったか。関西呪術協会の本山で見かけたのを覚えている。
 しかし、知った顔だからといって、引き金を引かなかった訳ではない。
 ただ、気になったのだ。
 あの男のことを刹那がひどくかっていたのが。
 彼女の言うにはあの男はとんでもない人物らしい。なんでも、あのSSWにいたとか。
 しかし、私にはそれが信じられなかった。
 刹那の腕は確かだし、人を見る目もあるのだが、あの男からは血の匂いがしないのだ。
 裏の世界に身を委ねていた者からは大なり小なり必ず血の匂いがするものだ。それは隠しきれるものではない。
 刹那の人を見る目と私の人を見る目。果たしてどちらの方が優れているだろうか。
 私はひどく気になった。故に
 ……確かめてやろうではないか。
 本当に今日はらしくない。仕事に遊び心を入れるなんて。
 通常狙うのは告白する方なのだが、私は狙いを変え、あの男に銃を向けた。
 どうせ結果は同じだ。
 告白する方とされる方。どちらかが気絶した時点で告白は防げる。
 もっとも、あの男が本当にSSWの人間であったのなら、この程度避けられるはずだが。
 私は狙いを定め、男に向かって引き金に指をかけた。
 あたった。
 引き金を引いた瞬間私はそう思ったのだが、すぐにそれは否定される。
 男が不意に動いたかと思うと、弾道上からいなくなったのだ。
 狙うべき相手から外れた弾はそのまま奇しくも当初の標的に当たるものの、私の心情はやぶさかではなかった。
 なぜなら、狙いが外れ、スコープごしに慌てて探した相手がこちらをまっすぐ見ていたのだから。
 まさか!
 背中から冷や汗が出た。
 頭を回るのは何故と言う言葉。
 確かに熟練者となれば殺気から何らかの回避行動をとるのは可能だろう。
 だが、それと相手の場所が一瞬にして分かるのとは話が別だ。
 相手から距離はゆうに四百はあるはず。
そんな距離からの狙撃で、相手の場所がこんなにも早く分かるはずがない。
 しかし、事実として相手はこちらを見ている。
 そして、その唇がゆっくりとこう動いていた。
「悪いが俺にそんな趣味はない」

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