ヘイ、ブラザー久しぶりだな。元気か?
俺の方は何時の間にかよく分からない状況にいる。
試合が終わったのはもう数十分も前のこと。
その時、俺はまだ武道会の会場にいた。
幼女の眼光が鋭すぎて、今すぐおさらばしたかったのだが、選手として出た手前、閉会式まではいることにしたのだ。
やり始めたことは最後までやりなさいという、親の躾に従った結果である。
もっとも、怖い顔をした幼女は木刀少女に負けたとたん、あっさりと帰ってしまったのだが。
とりあえずは身の安全が確保され一安心である。
まあ、そんなことで俺は、のんきに他の選手の試合を真由美さんと観客席でのんびりと見ていたわけだが、その時に尿意を覚え、建物の中へと用を足しに入っていった。
一般に開放されているトイレを見ると、結構込み合っているが、俺はそこへ俺は並ぶ必要はない。
選手用のトイレがちゃんとあるからだ。
こう考えてみると、選手になったのはよかったかもしれない……ごめん、うそだ。
俺は、トイレの行列に並んでもいいから、あの幼女とバトルなどしたくなかった。
何度、死ぬかと思ったか。
なんかそのことを思い出すと、目頭が熱くなってくる。
こんなことを思い出すのはもうよそう。
俺は、嫌な思い出を振り切ると、選手控え室の側までやってくる。
廊下の角を曲がれば、そこで会うのはツインテール一行。
何か、厄介ごとの匂いがし、俺はそそくさと、横を通り過ぎようとするのだが、誰かが俺の肩を掴んだ。
痛いくらいに俺の肩を握っている手をたどれば、それはツインテールの少女のものだ。
彼女は先ほどの幼女と同じくらいに怖い表情で、俺を睨みつけている。
「どうした、そんな好きな男が危険な状態にいるような顔をして」
俺の言葉に、彼女はしばし目を瞬かせるが、すぐに表情を直し、こう言った。
「事情はわかってるんでしょ。
あんた、手伝いなさい」と
すまない、真由美さん。
俺には怖くて断わることができなかった。
だけど、ここってどこなんだよ!
健介君は一般生徒です。第十一話
目の前に見えるのは水の奔流。
しかし綺麗なものではなく汚水だ。
鼻を突く臭いがそのことを深く告げている。
口で呼吸をするものの、鼻の粘膜に触れる空気が、脳に信号を伝えてくる。
はっきり言ってこんなとこはさっさと出たいのだが、ツインテールがそれを許してくれそうになかった。
シスターの少女が先ほどから、帰ろうというものの、それはことごとく却下されている。
俺としては、美空と呼ばれているそのシスターの少女に大賛成だ。
俺も木刀少女のように帰ってしまいたい。
なんで彼女は良くて俺はダメなんだ。
ここが、ツインテールの独裁国でなく、民主主義の国だったら俺はきっと今頃自由の身だろう。
それはともかく、ツインテールが何かを見つけたらしい。
気になって彼女の手元を覗き込めば、それはタバコの箱だった。
「これは……
高畑先生が良く吸ってたタバコの……
やっぱり、高畑先生捕まってるんだよ」
「えーでもこのタバコってよく吸っている人いるよ」
「こんな地下まで降りてきて吸う人いませんっ」
確かに、その意見に関してはツインテールの少女に同感なのだが、あのデスメガネが捕まっただと?
はっきり言って想像がつかん。
何が襲ってきたても、大砲のような一撃で終わりだろうが。
「静かに神楽坂さん 美空さん」
そこで、さっき裸に剥かれていたパッキンの姉ちゃんが口をはさむ。
どうでもいいことだが、さっきの試合の様子を見ていると、その言葉には緊張感が含まれているにもかかわらず、なにやら重みを感じれない。
しかし、その言葉に釣られたように現れたのは数十体の逆立った髪型のアンドロイド、田中さんだ。
というか、あれって量産型だったのか?
だが、そんなことを真剣に考えている暇はないらしい。
田中さんの口が開いたかと思うと、そこからはビームが吐き出される。
というか、これってどう見ても兵器だろ。
こん中は治外法権なのか?
日本の法律はどこいった!絶対に、外に出たら司法に訴えてやると硬く心に誓うが、さらに背後から現れる田中さんの集団。
……俺の人生終わったかもしれん。
さっきは何とかツインテール達を盾にして助かったものの、あんなのをくらって無事な人間がいるはずがない。
というか、あいつらなんで無事なんだよ。
しかし、前後から挟まれたとなると、盾にできる人物もなく、パッキンの姉ちゃんは寝ていて役にたたない。
くそっ、ここに無能警官バイアーがあれば喜んで使うのに。
しかし、こんな状況にも関らず、自分を美空という人物と認めないシスターにはあきれを通り越して、感嘆すら覚えてしまう。
だが、自称謎のシスターよ。
なんで、俺も一緒に連れて行ってくれなかったんだ?
謎のシスターは薄情にもちっこいのと一緒に戦線を離脱しやがったのだ。
くそっ、裏切り者!貴様だけはまともな奴(?)だと信じていたのに!しかし、過ぎたことは仕方がない。
なんとかして逃げる手段を探さなければ!道は一つ! 汚水に飛び込む!ってそれはダメだ。
俺は泳げない。
けっして臭い中に飛び込みたくないという、根性がないからではない。
なにか、なにか手がないのか。
必死で答えを探していると、箒を持った少女がまた、何やらを呟きだした。
試合では目立たなかったが、こいつが先ほどロボットに火炎をぶつけたところを俺は目撃している。
しかし、なんで君は俺を巻き込む様に手を伸ばしているのかな。
それに気付いた瞬間、俺はその直線状から少しでも避けようと壁の方へと退避した。
跳び上がった瞬間に爆風に背中を押される。
目の前に飛び込んでいるのは厚そうなコンクリートの壁。
ぶつかる衝撃に備え、俺は顔を腕で多い、目をつぶった。
しかし、思った以上になぜか衝撃が少ない。
というか、なぜ俺は壁を突き破っているのだろう。
体に伝わる感覚と認知の違いを不思議に思い、目をあげると、そこは先ほどの状況とは一変していた。
先ほどの下水は何処へやら、細い道が伸びているのである。
疑問に思い、背後を振り返れば、そこにあるのは、壁。
耳を澄ませば、その奥から爆発音や叫び声が聞こえる。
隠し扉か?
どうやら、俺が壁だと思ったところは巧妙に隠された隠し扉だったらしい。
爆風の衝撃で開いたのか、俺はめでたく隠し通路へと侵入を果たしたわけだ。
この先に何があるかは分からないが、隠し通路ということは、扉の向こうに戻るより安全ではないだろうか?
俺はそう考えると、恐る恐るその道を進むことにした。
しばらく進んだ後、モニターばかりの部屋に出たことをここに記して置く。
防衛はうまくいっているらしいネ。
他の魔法先生が応援に来たとしても、大会が終わるまではここにたどりつけるはずがない。
計画は万事うまく進んでいる。
アスナ達と戦う田中さん達を見て、私は口元を歪めた。
そして、これからの予定を頭の中でシミュレーションしようとするのだが、先ほどから違和感が離れない。
果たしてそれは何だろうか……!「ハカセ、すぐに奥村健介の姿を探すネ 今、何処にいるヨ」その事実に気付いたとき、私はすぐにハカセに指示をだした。
どうして、そのことに気付かなかったのだろう。
先ほどから監視していたモニター。
その何処にもあの男の姿がない。
逃げた?
一瞬そんなことも考えたがすぐに否定する。
こんな地下まで降りてきて、なにもせずに出て行くといったほうが不自然だろう。
「超さん。いました!
これは…隠し通路です!」
ハカセの声に私はすぐに彼女が指すモニターを見つける。
どうやったのか、あの男は隠し通路の中にいたのだ。
確かにあの近くに入り口はあったのだが、戦闘の中で見つけられるようなちゃちな造りはしてないはずである。
どんなに過去を調べても、普通の記録しかのこっていない男。
奥村健介。
それは、それだけ奴が巧妙に過去を捏造しているということであろう。
計画の一番の障害になるかもしれない男を私はモニター越しに鋭い目で見つめた。