ヘイ、ブラザー元気か?
 俺の方は麻帆良の学園祭の最終日イベントに参加している。
 火星から侵略してきたロボットを撃退するというシナリオのものだ。
 しかし…
 ズドゥン ズドゥン
「敵を撃て!」
 チュイン チュイン
「きゃああああ」
 これはどう考えてもおかしいだろ。


健介君は一般生徒です。第十二話


 そもそもだ。日々の生活の向上のために、こんなイベントに参加したこと自体が間違いだったのだ。
 イベントの変更についての宣伝文句に、昨日の武道会の演出に使用されたアイテムが使いたい放題というものがあった時点で気付くべきだった。
 これが魔法なんぞという、現代科学の基礎に真っ向から喧嘩を売るものとかかわっているということを。
 この騒ぎの中、なぜか死人はでていない。
 それは、ばかばかしい理由ながらも当然と言える。
 なぜなら、イベントの適役であるロボットが撃つ光線は、服が脱がすことはあっても、人を怪我させることはないのだから。
 ロボットといい、ビームといい、いったいどんな技術体系をしているんだとつっこみたいが、もっと今の自分がしたいことといえば、こっからいち早く離脱することだ。
 魔法と名のつくことにいい思い出なぞない。
 まったく、どうして俺はこんなことになる直前になってからしか気が付かないんだ。
 自分の鈍さに嫌気がさす。
 ひょっとしたら、これは固有スキルじゃないだろうか?

 鈍感B
 事件を避けるための能力の低さ。
 Bクラスになると、事件を回避できなくなった直後にしか、自分のミスに気付かない。

 考えてみたが、イやなスキルだ。
 もし、そんなものを持っているんじゃないかと思うと、鬱になってくる。
 だが、こんなくだらないことを考えて鬱になっている暇は俺にはない。
 はやく、平穏無事な世界へと帰るのだ。
 問題は…地形的に、激戦区を通り抜けないといけないと言うべきだろうか?
 もっといえば、なぜこのロボット集団は、俺の姿を確認する度にその銃口を目の前のプレイヤーから俺の方に返るのだろうか?
 俺に恨みでもあるのか? 謀略の匂いがするぞ!
 おかげで、走り抜けること自体が不可能に近い……
 と最初は思っていたのだが、いざやってみると、それは以外に楽である。
 そりゃあ、目の前の人間から注意をそらせば、やられるのは当然だよね。
 おかげで、俺はたいした攻撃も受けずに走ることができる。
 俺の逃げ足の速さをなめるなよ。
 この時までの俺がいつもとは違い余裕尺尺であったことは言うまでもない。
 そう、この時までは。
 次の瞬間。学園に現れるのは巨大なロボット。
 はっきり言おう。ちょっと待て、それはおかしい。
 現れたロボットを俺は呆然と見上げた。
 なんなんだ、あのでっかいのは。
 それでいて、なぜ水辺という地盤がしっかりしてないところで沈まない。
 そもそも、あれだけの質量のものをどうやって湖まで運搬したのかを聞きたい。
 「ガンダム」とかさわいでいるやつがいるが、ガンダムはリアルロボット系だ。
 あれはどう見てもスーパーロボット系だろう。
 形状からこんな無駄な思考をしているあたり、俺が相当テンパってるのはいうまでもない。
 こんな危機的状況は、冷静になって対処しないといけないのに今回のようなでっかい危機の場合は特に。
 なんせ巨大ロボは俺の前にいるのだから。
 あれか。途中で道に迷い。敵の居ない方居ない方に来たのがいけなかったのか?
 どうやら、そこはヒーローユニットの通り道だったらしい。
 つまり、行き着く先は最前線である。
 どおりで、残骸が多いとおもったよ、ちきしょー!裏道なんて通るんじゃなかった。
 だが、後悔しても遅い。
 幸い、敵は制圧ポイントの方を向いている。
 つまりは、俺の方を見ていない。
 このまま、裏道に戻れば助かるはずだ。
 頭の中で通そうプランを起こし、実行しようとするが、そこで戦場に派手な音が響き渡る。
 振り返って見れば、先程までそびえ立っていたロボは腹に大穴をあけて横たわっていた。
 上を見上げれば、あるのはデスメガネの姿。
 つまりは、武道会で見せたあの技を使ったのだろう。
 つくづく人間ではない。
 しかし、これはチャンスである。
 目ざわりな巨大ロボはもういない。
 安全な場所に逃げるとなると、ここを横切るのが一番の近道だ。
 俺は意を決して走り出した。
 途中で石につまづいたが。
 慌てて衝撃に備えようと握っていた支給品から手を放す。
 持っていた銃型の物体は空を気持ちいいくらいに飛んでいった。
 って、もらった訳じゃないんだから、なくすとヤバイよな。
 そう思い、目線で銃を追う。
 落ちた場所さえわかれば、騒ぎが終わったときに手に入れれるはずだ。
 速度エネルギーは位置エネルギーにまだ変換されきれないようで、まだ上昇を続けているが、それも時間の問題だろう。
 ボンッ途中で、破損しない限りではあるが。
 空を舞ってた銃型の物体はなぜが空中で爆発した。
 あれって、次元装置でもついていやがったのか!
 なんつー危険な代物だ。
 だが、そんなことを気にしている暇はない。
 俺は恥も外聞もなく。
 その場から脱兎のごとく逃げ出した。



 そろそろ、私もうごくかと私は狙撃ポイントへとむかった。
 刹那達はよくがんばっているようだが、彼女達は守るという状況から後手に回らざる追えない。
 それがこちらのもっとも有利な点といえよう。
 攻めるほうは守るほうの五倍の戦力がいるというのが通例だ。
 戦況が膠着していることから、あちらとこちらの兵力差は四倍以上、五倍未満といったところであろう。
 ならば、その戦力の要である彼女達がいなくなれば、どうなるであろうか。
 答えははいうまでもない。
 スコープ越しに戦場を見る。
 過去のそれと比べて、この戦場は血の臭いがあまりにも希薄だった。
 それを喜ぶ反面、物足りないと思う限り、自分の手が血塗られていることを自覚してしまう。
 これは感傷に過ぎないのだが、おそらくあの男もそうではないのだろうか。
 あたまに浮かぶのは、一般人を装った一人の男の姿。
 一見すれば、本当にただの一般人にしか見えないのだが、スコープ越しにこちらを睨んでた瞳を、二日経った今でもよく覚えている。
 この戦闘の前半戦。
 あの男の動きはとても巧妙だった。
 わざと自分を無防備に見せて、こちらの兵力を自分に釘付けにし、一般人にそれを撃たせる。
 一見簡単に聞こえるが、その奥にはこちらの戦力がほとんど機械だということをついた巧妙な策が伺えるのだ。
 機械は人間とは違い、その行動原理はプログラムによって制限される。
 つまりは、再優先事項と決められたことに対しては、否応にも対応せざるおえない訳だ。
 こちらのロボット達には事前に一つの命令が下っていた。
 それは、奥村健介という生徒がいたら、他のものは無視して、まず第一に倒せというもの。
 彼を危険性を考えた故の命令であったのだが、それが仇となったのだ。
 しかし、恐ろしいのはそのことではない。
 それは、この策が事前にこちらのこの命令を察知してないと使えないということである。
 つまりは、相手はこちらがこのような命令をロボット達にしていたことを予想していた。
 もしくは、知っていたこととなる。
 どこまでも食えない男だ。
 そんな彼を先程から戦場で見かけていない。
 逃げた?
 そんなことはありえないだろう。
 おそらく、このままでは埒があかないと、どこかで策を練っているはずだ。
 ここぞというタイミングで出てくるのは間違いないだろう。
 だが、その前に敵は減らして置くに越したことはない。
 というわけで、高畑先生には悪いが、そろそろ退場していただこう。
 私は鬼神を倒し、気を若干緩めた高畑先生をねらい、引き金をひいた。
 銃口から飛び出す銃弾。
 それは風を切り、先生の元へと向かっていくが寸前のところで飛来物にぶつかった。
 何が?
 スコープ越しにすんでの所で高畑先生が振り返るのを見て、彼が何かをしたのかとも思ったが、そうではないらしい。
 飛来物が飛んできた方向を見れば、そこにはあの男がたっている。
 彼はこちらの視線に気付いたのか、銃弾を避けるために伏せていたであろう体を翻し、すぐにもの影に隠れる。
 狭い路地に入り込んだために、これでは兆弾も使えないだろう。
 こちらの実力は調査済みというわけか。
 まったく、やりにくい相手だ。
 そんな思考もそこそこに、わたしは次の標的に狙いをつけた。

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