ヘイ、ブラザー。元気か?
 俺の方は少し自分の人生について思わず考えていたところだ。
 なあ、どうしたら魔法なんてものから縁を切れるんだと思う?
 誰か知っている人間がいたら教えて欲しい。晩飯程度ならおごってもいい。
「け、健介さん。
 どうしてここに」
 それは俺も聞きたい。
 少年教師。どうして君はここにいるのかな?


 健介君は一般生徒です。


 ロイドさんの頼みごとを聞いてやってきたのはイギリスの片田舎。
 そこで出会ったのは俺の出会いたくない男ナンバー1に位置する子供先生だった。
 妹の方は「あ、例の子供先生だ」とか喜んでいたが、お前は何も知らないから喜んでいられるんだ。
「健介さん。お久しぶりです。
 どうしてここに?」
「俺の方は、ロイドさんから少しな、お前の方は?」
 それは俺のほうが聞きたい。少年よ、どうしてお前の方がここにいるんだ?
 そう思い聞き返すのだが、なぜかその言葉を聞いた瞬間、少年は深刻そうな顔をした。
 そして、そのまま深刻そうな顔で詰め寄ってくる。
「それは、SSWでなにかあったんですか?」
 なぜSSW? そのことを聞いてくるの理由は分からなかったが、それを訂正するのもめんどくさかったので、適当にそうだと答えておく。
「ま、まさか、何か事件が?」
 お前は俺をなんだと思ってるんだ? 俺の居るところに事件が起こるとでもこいつは思っているのだろうか? むしろ、事件の渦中にいるのはお前だろ。
 そう苛立ちを含め思っていると、それが通じたのか少年は「いえ、なんでもありません」と口を閉じてしまった。少し、大人げなかったかもしれん。
「あー、少年。ときにこちらの人物をしらないか?」
 その雰囲気にいたたまれなくなり、別の話題を出すことにする。気の利いたジョークなどをいえないのが辛いところだ。俺はロイドさんから預かった手紙の宛名を少年へと見せた。墓参りに行くには、特別な道を通るしかないらしく、この人に尋ねろということだった。
「これは、おじいちゃんですね」
「おじいちゃん?」
 ま、まさかロイドさんの知り合いって、こいつにおじいちゃんなのか?
 一瞬冷や汗がでるが、それはすぐに否定される。どうやら、おじいちゃんというのは親しみを込めていっているだけであって、こいつが通っていた学校の校長先生のことらしい。それならまだ安心だと、俺はそこへの道案内を頼むことにした。

 故郷に帰ってきた僕は、そこで思いがけない人をみた。
 SSWの健介さんだ、。どうしてここにと、疑問を口にすれば帰ってきたのは「ロイドさんから少しな」という言葉。ロイドといえばSSWの司令官といわれる人。その人からここへ来るように言われたなら、それはSSW関係のことなのだろう。そう分かった瞬間、僕は大きな不安に襲われた。
 SSWが動く事態。それは何か大きな事件が起きたのかもしれない。たとえば、京都で起こったことのような。そのことを聞いても健介さんは黙して答えない。
 それは考えてみれば当然だった。SSWの任務は秘匿されるもの。僕みたいな係わり合いのない人間に話せるわけがない。僕はそのことをすぐに健介さんにわびた。
 その謝罪が受け入れたかは分からないけど、健介さんは人を探しているらしく、僕に便箋を見せてくる。文字が滲んできるのが気になったが、そこに書かれていたのはおじいちゃんの名前だった。
 おじいちゃんは、この辺一帯の責任者だ。どうやら大きな事件が起こっているらしいと、僕はこの時確信した。

 少年教師に連れられて、やってきたのは丘の上の建物。どうやら、ここが少年の通っていた学校らしい。そこに入ったときの感想は、外国の学校ってすげえかねかけてるなぁというものだった。ステンドグラスのはいった講堂ってどんなけ豪勢なんだ? そして、そこで少年に紹介されるのは、長い髭の老人。俺は、ロイドさんの友人の墓に連れて行ってもらうために、老人へと手紙を渡した。
「念のために銃を見せてもらってかまわないかね」
 一通り手紙を読んだあと、老人はそう言う。銃と言うのはロイドさんに持たされたオモチャのことだろうか。俺は懐の中へと手を伸ばした。そこにあるのは、本物と見まごうばかりの黒光りする銃のオモチャ。念のために言っておくが、決して本物ではない。俺もここに来る途中、荷物の中に入っていたそれを本物と勘違いして驚いたものだが、天に向けて引き金を引いた瞬間、それが偽者だと分かった。
 なにせ弾がでないのだ。代わりに出たのは白い光である。きっと、銃形のライトだろう。光度は確かにすごかったが、あんなもので人が殺せるわけがない。
 なぜ、そんなものをロイドさんが渡したのかは分からなかったが、それはどうやら、本人確認のためだったらしいと俺は結論をくだした。
「確かに……
 そうか、とうとう動き出すのか」
 それをひとしきり見た後、老人は大きく頷いた。

 ネギに連れられてやってきたのは、見ず知らずの青年だった。
 どうやら、わしに用事があるらしいが、一体何のようだろうか?
 この辺一帯の顔役と言うこともあって、人が訪ねてくるのは別段めずらしくないのだが、日本からというのはめずらしい(どうやら、彼は麻帆良学園の生徒らしいのだ)
 はて、なにかなと疑問に思っていると、彼が差し出してくるのは一通の手紙。宛名は自分の物。誰からと思い裏を返す。
 ロイド=F=ローゼンヒル
 そこにはそう書かれていた。
 彼の事は知っている。SSWの元司令官。確か今の時期は彼が本国へと墓参りに来る時期である。しかし、彼とワシとの直接なつながりは限りなく薄い。その彼がワシに手紙とは。
 いぶかしみながら手紙の封を切り、中身を取り出す
 意識が朦朧としているときにかいた物なのだろうか。そこには言葉も少なく震えた字でこう書かれていた。
『彼を本国へ送って欲しい』と
 それと共に入っているのは、本国とこちらを繋ぐゲートへの武器の持込の許可申請書。
 武器の種類は銃と書かれていた。
 まさか!
 ワシは彼に銃を見せてもらうように頼むと彼が取り出したのは一丁の銃。
 その表面には「A」と言う文字が確認できた。
 そうかSSWは壊滅していなかったか。彼が何をするために本国にいくかは知らないが、今の状況からこの想像は間違いないだろう。
 すなわち、ロイド=F=ローゼンヒルの寿命はもうながくはない、そして司令官の座は目の前の青年に引き継がれた。
「そうか、とうとう動き出すのか」
 ワシは静かにそう呟いた。

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