第4話 ここまできてリリカルかよ

「はあ」
 日に日に減っていく米びつの中身にため息をつく。始め一日二食とっていたご飯も今では1食にまで減らしていた。すいた小腹を抱えながらも、畑にでるが収穫はまだ遠そうだ。狩りもうまくいっていないし、今日こそは何か獲物が罠に引っかかってくれないものか。畑を一望した後、若干の期待をこめ、俺は森の中へと出歩いた。お供をするのは、小走り犬と屑鉄カゴであある。
 がさがさと木々をかき分け、昨日設置した罠を一つ一つ探っていく。
 一つ目……ない。
 二つ目……ない。
 最後の三つ目……ない。
 これで十九連敗だ。二十日前に食べたうさぎの肉の味がなつかしい。しょげ返り、とぼとぼと家に戻る。これは依然考えた通り、人海戦術に出たほうがいいのだろうか?
 自分がつくったカカシの数は全部で七体。それらにすべて狩りをさせれば、獲物も捕まるかもしれない。いやいや、でも畑に一体は残しておかないといけないし、実質には六体か?
 食生活を向上させようと考えながら家につくが、そのとき畑の方がなにやら騒がしいのに気付いた。爆発音?
 急いで駆けつけてみれば、そこに立っているのは一人の男。あしもとには俺のカカシの残骸であろうものは散らばっていた。黒色のゆったりとした服に身を包んだその男は杖をまだ立っている一体、婆カカシへと向ける。
『shot』
 男の持つ杖から機械音声がもれる。その瞬間現れるのは緑色の光の球。それは躊躇なく婆カカシに進んでいき、こなごなにした。畑にいくつもの木片がつき刺さる。いや、それはもう畑と呼んでいいのだろうか? いくつもの足跡をつけられ、木片の散らばるそこは、畑というより荒地といったほうが適切だ。
 それを認識した瞬間。心の奥底から形容しがたい怒りがこみあげてくる。
「小走り犬……」
 震える声で俺は小走り犬に呟いた。小走り犬は俺の声に応えるように赤いマナを提供する。そのマナを左手にこめ、右手から術式の書かれた紙を取りだすと、俺は男に近づいた。その足音に、男はこちらに気が付く。
「何者だ!」
「……何者?
 それはこっちの台詞だ。人の畑をこんなに荒らしやがって!
 死にさらせぇぇぇ!」
 そう叫んで突き出した右手から出るのは稲妻。俺の怒りを乗せたそれは、男に向かって飛んでいく。しかし、
『protection』
 男が持つ杖から声が出ると共に、それは突如現れた光の幕によって防がれた。
「は、畑?
 こ、こちらは時空管理局武装隊のデミオ=マーチ3等空尉だ。
 とりあえず、おちついて」
「ジクウカンリキョク? てめぇなめてんのか?
 とりあえず、あやまれやぁぁぁ」
 叫ぶと同時に相手のふところに突っ込んだ。突き出すのはこぶし、しかしそれも突如現れたシールドに阻まれる。くそやろうが、絶対に殴ってやる。俺は再度こぶしを握りなおすと手を振り上げ、
「お、おちついて。
 畑については補償するから」
 そのままぴたりと止まった。そのまま固まること数秒。男の言葉を反芻して聞き返す。
「本当か?」
「あ、ああ、本当だ」
 畑を補償するだと。畑を補償する=飯が手にはいる。
 ということは、飯の心配をしなくていい。
「客人としてもてなそう、家に入るといい?」
 我ながら変わり身が早いと思うが、極上の笑みを浮かべ笑いかけた。その時、相手が恐ろしいものを見たような顔をしていたが、気にしないでおこう。しかし、この付近に人がいたとは驚きだ。てっきり、無人だと思っていたのに。相手の服装を見ても、文化レベルは低くないと考えられる。武装隊とかいっていたから、どこかの兵士だろうか。男の所属はジクウカンリキョクとか言っていたか?
 ん? 時空管理局?
 その名称にはなんだか心当たりがあった。そんな馬鹿なト思いながら男を見る。
「なにか?」
「いや……」
 黒い服に銀色の鎧。それは自分の記憶のある人達に似ている気がする。
 その疑念をはらすべく、男に疑問を投げかける。
「なあ、さっき言っていたが時空管理局ってなんだ?」
「それはいいが、こちらからの一つ聞きたい。この星は無人のはずなのだが、どうしてあなたは住んでいるんだ」
「俺は……漂流者だ。
 気付いたら、ここにいた。その家とともにな」
 その言葉に男は俺の住みかをまじまじと見つめる。そして、自分の中で何かを納得したらしく大きくうなずいた。なんか「3ヶ月前に次元震が」とか呟いてた。
「うん、君の状況はなんとなく理解した。ところで時空管理局何かだったな。時空管理局とは簡単にいえば警察組織のようなものだ。次元上にはこの世界と同じようにさまざまな世界が存在している。時空管理局とはそれらの管理やロストロギアと呼ばれる危険物の管理をしている」
 男の説明はこちらの思っていた通りのものだった。時空管理局。それは深夜に放送されていたアニメにでてくる組織の名称である。つまり、ここはリリカルなのはの世界ですか? そういえば、男の使っていた魔法もミッドチルダ式ぽかった。
 やばい。果てしなくやばい。なにがやばいかといえば、俺の本棚に収まっている本棚にあるものがやばい。そこにはアマゾンで買った、リリカルなのはの漫画が収めれている。他にもパソコンないには録画したアニメの数々が……
「どうかしたか?」
 突然固まった俺を不思議に思ってか、男は声を投げかける。いかん、部屋の中を覗かれるわけにはいけない。ごまかさなくては。
「そ、それなら、俺は元の世界に帰れるのか?」
「ああ、世界の特定ができれば、送ることが可能だが。
 いつからここに?」
 どうやらごまかされてくれたらしい。男は俺の言葉に「さぞつらかっただろう」と同情的な言葉をなげかけてきてくれた。男のその同情は正直うれしかった。ここに暮らすこと半年程度。誰も話し相手のいない生活に心はぬくもりを求めていた。それと同時に本心を語らないことが心苦しくもある。男、いやデミオさんは送ってくれるといっていたが、それは不可能なことだ。俺の想像どおりなら、ここにある地球は俺の想像している地球と違うはずなのだから。

- 目次 - - 次へ -

inserted by FC2 system