第八話 地上本部の要請

 それはアリサとの出会いから数日後のこと、俺はデミオと共に時空管理局のミッドチルダ地上本部へときていた。案内されたのはその中の一室。座り心地のよい椅子に座り、コーヒーなんかをすすっていかにもリラックスしているように見えるかもしれないが、内心は焦りまくりだった。
 ことの起こりはアリサと会ったその日の晩にさかのぼる。
「お前、あほか?」
 地球で弟子を取ることにしたと言う俺に対して、デミオはあきれたようにそう言った。
「あほとはなんだ。あほとは」
「いや、あほとしか言いようがないだろう。
 あの許可証はお前が現地で問題を起こさないと判断された上で発行されたものだ。
 お前だって、分かってるだろう?」
 そのことについては十分に承知している。さっきは言い返したが、自分でもどうかしてると思うし、そもそも弟子を取る予定なんぞ最初っからなかった。
「だから、こうしてお前に報告しているんだろう」
「むしろ報告されなかったほうが、厄介ごとがなくてありがたかったんだがな」
「そいつは、すまんかった」
「あやまりかたに誠意がみえんぞ。
 はあ、まあいい。上の方には俺がなんとか話す。けど、あんまり期待すんなよ」
 そう言ったデミオは苦笑いを浮かべていた。本当にこいつはいい奴だ。文句はいうがこんな風に俺の面倒を見てくれる。ともかく、その日はそれで終わったのだが、後日とどいたのは地上本部への召喚状だったのだ。しかし地上本部へとはとういうことなのだろうか? お小言をくらうにしても、外の世界のことなら本局のほうに呼ばれるのだが。そのことを疑問に思い、横にいるデミオへと問いかける。デミオは恨めしげな目をこちらに向けながら、ここに呼ばれた理由を話し始めた。
 管理局では慢性的に人が不足している。優秀な魔導士が少ないことが主な理由だ。そして、そのしわ寄せがどこにいくかというとアニメと同様に地上本部である。当然優秀な魔導士を本局に持っていかれる地上本部が本局に対していい感情を持っているはずがない。その感情が任務に支障をきたすこともあるのだが、さてそれを解決するにはどうすれば良いだろうか? 答えは簡単。魔導士が増えれば問題ない。ただ、魔法は先天的なところが多く、リンカーコアがないと使えないといった問題点がある。だが、そんなところにリンカーコアを使わない魔法体系をもった魔導士が降って出てきた。その魔導士は情報の開示を拒んでいるが、先日弟子をとりたいという旨を伝えてくる。
「つまり、弟子を取るのは黙認するから、管理局の人間にも教えろと?」
「その通りだ」
「なら、わざわざ地上本部じゃなくて、本局で話しをすればいいだろう」
「そこは政治的な問題だ」
 人不足は地上の方が深刻である。ここでさらに本部が従来の魔法体系から外れた力まで手にいれたらどうなるだろうか? 地上本部の反発は今まで以上に深刻になるだろう。
「それだけか?」
「もちろん、失敗したときのリスクも考えているだろうな。うまく魔導士が生まれなければ、時間と予算の無駄であるし。
 うまくいったのなら、戦力の増えた地上から魔導士を持ってくればいい。
 で、俺はそんな腹黒い本局と反感を持っている地上本部との連絡が係りにされてしまったわけだ。誰かさんのせいで」
 その誰かさんとは間違いなく俺のことであろう。俺はデミオから目をそらした。
「デミオ」
「なんだ?」
「マジで、すまんかった」
「そういう言葉は、ちゃんとこっちを見ていえ。
 許してやるから、今度なんかおごれよ」
「分かった」
 その言葉に素直に肯く。出会ってからこいつにどれほど迷惑を掛けただろうか? おごるだけでそれに報えるのなら、いくらでもおごってやりたい。
「遅れてすみません」
 とそこでタイミングを見計らったように部屋のドアが開く。入ってくるのは妙齢の女性。ミッドチルダの地上部隊の人だろう。隣にいるデミオが椅子から立ちあがって敬礼をするのに会わせて俺も立ちあがりお辞儀をした。それに対して女性も敬礼をして答える。
「ミッドチルダ地上本部、第二十四部隊のベリーサ三尉です。
 本日はわざわざ足を運んでいただきありがとうございます」
 はきはきとした口調。バイタリティにあふれるそこ声色はある種の威圧感が感じられた。
「どうぞ、席におかけください」
 促されるままに椅子に座ると、彼女は早速話しを始めた。話しの内容はデミオに教えられた通りに地上本部の人間に俺の使っている魔法を教えろというものだ。
「いいですが、二、三条件をつけさせてもらってもよろしいでしょうか」
 相手が一通り話したところで、今度はこちらから注文を相手に出す。一つ目はもちろん管理外世界のとある人間に自分の魔法を教えたいというものだ。
「なぜ、突如弟子を取りたいとお思いに?」
「その子に才能を見たからです」
 この答えはもちろん嘘だ。実際には流されてというほうが正しい。もっとも、一概にアリサに才能がないというわけではない。
「人選のために、その才能について聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「ええ、自分の使用している魔法はどちらかといえば学問に近いといいましょうか。
 そういう意味で、頭の回転の早い人間、もの覚えの良い人間の方が適しています」
 これは本当のことだ。俺がいつも使っている術符。あれらは自分で覚えるしかないし、色の特性の概念も勉強するほかないだろう。つまり基本的に記憶力のいい人間の方が、覚えるのが簡単であることは確かだ。一応納得がいったのか、ベリーサさんは次の条件を促した。
 こちらから提示する二つ目の条件は資金の援助だった。人を教育するのには金がかかる。各地を動く管理局員が俺の魔法を使用しようと考えると、最終的に冷鉄の心臓などのマナアーティファクトも必要だろう。それに教えている間、俺は無収入である。ならば、自分の生活を守るために金を手にいれなければならない。この提案はすんなりと受け入れられ、それなりの金額を示される。
「他には?」
「では、最後に。
 自分が地球、ああ、第97管理外世界で見つけた子ですが、彼女が望まない限り管理局は関わらないでほしい」
「いいのですか? もし、あなたの使用している術式が評価されたならば、その子も管理局に優遇されると思いますが?」
「将来は本人が決めることですから。
 それに、本人が望まないならです」
「分かりました。
 こちらから出向させる人員は後日そちらにお知らせします。
 まずは様子見のために一人程度ですが、評価できれば他の局員も指導してもらうことになるとおもいますので」
 交渉は成立した。これから忙しい日々が始まりそうだ。

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