第十二話 彼女の決意


「決めたわ」
 彼女がそう言ったのは、あの真実を告げた日から1週間程後のことだった。今の彼女はあの時の様子がまるで嘘みたいに生き生きとしている。
「ずいぶん早いな」
「だって、うじうじ考えているなんてわたしらしくないもん。
 どんな困難が待っていたって、よりハッピーなエンドを迎えさせるのがアリサ=バニングスよ」
「なるほど、確かにそれはアリサらしい」
 失敗したときを恐れて俺が取らなかった選択肢を取ると胸を張って言いきった彼女の姿はとてもまぶしく見えた。
「それで、これからどんな風に関わっていくんだ?」
 その問いに対して彼女は「それについてもちゃんと考えているわ」と自身満々に言う。
「まずはフェイトのことだけど、ちゃんとフェイトのお母さんにフェイトのことを認めさせてやるの」
「どうやって? 言うほど簡単じゃないのは分かっているだろ。
 心の問題は本人同士でしか解決しない」
「そんなのはもちろん分かっているわよ。
 でも、あの話ではフェイトとあの人が話しあう時間を十分持っていたとは言えないんじゃない」
 だからプレシアがアルハザードに行くのをとめるとアリサは言う。絶対に捕まえて、フェイトの話を何度でも聞いてもらうんだと。
「じゃあ、アリサ自身もジュエルシードを集めるのか?」
「うーん、そのことなんだけど、時の庭園の場所なんて分からないわよね?
 だったら、最初は陰ながら見守ろうと思うの」
 確かに時の庭園は管理局が犯人のめぼしがついてもその場所が分からなかった場所だ。自分達がそう簡単に探せるとは思えない。だが、それがどうして陰ながら見守ることにつながるのだろうか? そのことを聞くと、彼女は「ねえ、亮也はフェイトに勝つことができる?」と聞き返してきた。
「場合による」
「それは?」
「自分がパスをつないだ土地で、さらにカカシを全投入して消耗戦に持ちこめば勝てる」
 おそらく一対一の勝ち勝負では勝ちを取ることは難しいだろ。
 フェイト=テスタロッサ。彼女はリーンフォースのスターライトブレーカーを防いでいる。バリアジャケットの装甲が薄くとも、その防壁は俺にとって脅威だ。X点火力で何マナつぎ込めば破れるのか想像がつかない。絡め手で攻めるしかないだろう
「つまり、簡単には勝てないということよね。亮也に劣るわたしなら尚更。
 じゃあ、魔法を使い始めた頃のなのはなら?」
 どうだろう。彼女の才能は確かにすごいが、自分がどんな魔法が使えるかを分かっていない。その隙をつくのなら、少なくともファイトより簡単に勝つことが出来るだろう。
「なのはを鍛えるつもりか?」
「ええ」
 アリサは肯定する。確かに、彼女の計画を遂行するためにはそちらのほうが都合がいいだろう。その考えに俺も賛同を示す。
「ジュエルシードについては分かった。じゃあ、闇の書については?」
「そこが問題なのよね。リーンフォースはどうやって助ければいいのかしら?」
 リーンフォース。彼女を助けるには闇の書の防衛プログラムを完全に破壊し、再生できないようにしなければならない。果たしてそんな手立てはあるのだろうか?
「そちらについては、俺も考えておく。
 まだ時間はあるんだ。ゆっくり考えればいいさ」
「そうね。なら、今は自分のできることから始めるわ。
 さしあたって、魔法の練習かしら」
「満足行くまで、相手をしよう」
 不敵に笑うアリサに俺も不敵に笑い返した。

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