第十四話 愚鈍の塵

 なのはのジュエルシード集めは順調にいっている。先日も神社で犬を取りこんだジュエルシードを危なげながら封印していた。さて、次に出現するジュエルシードは大樹だったか?
「なあ、アリサ」
「翠屋FCの試合だったら今週よ」
 こちらの言わんとすることを察して彼女は答える。
「分かっているなら話しは早い。どうするつもりだ?」
 彼女と俺はこれまで、なのはのジュエルシード集めに関わらない方向ですごしてきた。しかし、次に発生する事件においては街に大きな被害を及ぼしている。正義感の強い彼女がそれを見過ごすとはとても思えなかった。
「その前に一つ聞きたいんだけど、亮也はあの木を止めようと思えば止められる?」
「自分の師匠を疑ってもらっては困るな。
 あの程度、抑えることはできる」
「どうやって?」
「俺なら成長しきる前に破壊的なかがり火で焼くかな」
 対ツリーフォーク用火力である破壊的なかがり火。相手が木という性質上有効な手段だろう。俺のその言葉に彼女は深く考え込む。
「何を悩んでいるんだ?」
「うん、もしこの事件で手を出したら、なのはが長距離砲撃を覚えないんじゃないかって」
 言われてみれば確かになのはは今回の騒動で長距離砲撃を行っていた木がする。街に大きな被害が出てそれに責任を感じたなのはが事態を早く収集するために長距離砲を用いたのだ。
「つまりは見て目を派手にして、被害があまりでないような状況を作りだせばいいのか」
 はたしてそんな都合の良いカードがあっただろうか? 周りの建物などを強化すれば被害は減るような気がするが、構築物を全体強化するカードなど思い当たらない。
「いや……」
 そこで俺は思いなおす。考えてみれば周りを強化する必要などない。ジュエルシードによって出現した巨木の攻撃力を落とせば良いだけだ。後で魔導書を読み返さなければ分からないが、青にそのようなカードがあった覚えがある。
「アリサ、なんとかなると思う。
 まだ、はっきりとは言えないが、相手の攻撃力を削る魔法があったはずだ」
「本当?」
「ああ、だから、この件は俺に任せて、気がねなくお前はサッカーの応援をしてきてくれ」
「本当に大丈夫?」
 俺は自身満々に言うが、アリサは逆に心配そうだ。
「なんだよ、信頼ないな」
「だって、亮也抜けているから」
「……」
 俺は言い返せなかった。抜けているには自覚しているからだ。
 だが、このままではあまりにも悔しいので一言だけ言っておこう。
「まあ、そん時はそん時だ」
「ちょっと」
 開き直ったその言葉に彼女は口を尖らせた。


 幼いカップルの背後をストーキィーング!
 妙なテンションだが気にしないでほしい。傍から見ればそく通報モノ状態。職務質問されれば、いいわけのできない状況に少し精神にきているのだ。ばれないようにかつ、周りの視線を気にする尾行で精神うをすりへらす。いっそ、ジュエルシードをさっさと奪い取った方が良いんじゃねという考えが頭に浮かぶが、計画上できるわけがない。なにより、アリサの機嫌を損ねるのが厄介だ。こちとら早く終わりたいのに。
 くそ、そこのガキ。さっさと彼女にプレゼントを渡さんかい。
 楽しそうに談笑している二人に罵倒すると、ガキのほうはようやくポケットの中に手をいれた。取りだしたるは青色の石。それを女の子に渡した瞬間、それは起こった。あたりに光が広がったのは一瞬のこと。そこから出現するのは巨木だ。その圧倒的な存在感に呆然としそうになるが、いつまでもそうしてはいられない。ポケットの中に手を伸ばすと、そこから術符を一枚取りだした。
『愚鈍の塵』
 クリーチャーのパワーを抑えるエンチャントである。魔力を通すと術符は光のしずくとなり、その効力を開始する。
 木の成長は止まらない。しかし、その根や枝はビルのコンクリートの壁を貫かず、アスファルトもめくり上げたりはしない。
 これなら大丈夫だろう。俺は遠くの方に桃色の魔力光を確認するとその場から離れた。

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