第十五話 突然の衝撃
正に寝耳に水の言葉だった。
「明日、すずかの家に行くけと、ついてきてくれる?」
「は?」
「だから、明日……」
「いや、それはわかったが、どうして俺がついていくんだ?」
「だって、次にジュエルシードが発現するのはすずかの家でしょ」
いや、そうだとしても、どうしてそれが俺の付いて行く理由になる。今までどおり影から見守ればいいと思うのだが……
「あの家の防犯システムに万が一にでも引っかかったら、どうするの?」
「ひょっとして、ロボットとか巡回しているか?」
「あれ、よく知っているわね。アニメではそんな模写なかったと思うけど」
「まあ、別の情報源からな……
ということはとらハ仕様か」
アリサが不思議そうに聞いてくるが、それには適当に返しておく。それより問題なのは月村邸の武装がとらハ仕様ということだ。この分だとあの家のものが夜の一族というのも有効かもしれん。
夜の一族とは簡単に言うと吸血鬼の一族のことだ。詳しく言えば、吸血鬼だけではないのだが、そこは割愛しておく。
「なあ、俺行かなくていいんじゃないのか?」
「はあ? どうしてよ」
「だって、俺が行かなくても絶対に大丈夫だろ」
「その自信はどこから出てくるのよ?」
「……だってそこにはなのはの兄さんも来るんだろ?
万が一がおきたとしても大丈夫だろ」
うん、どう考えてもあの人がいれば俺なんて要らないだろう。俺より強そうだし。
父親の高町士郎と対面したときのことを思い出す。
あの時程生きた心地のしなかったことはない。なんていうのか、数百本の剣を突きつけられているような気分といえば少しは伝わるだろうか?
父親があれで、妹がああなるんだ。その血族がどうかと考えればわかるというものだ。
「いくら恭也さんが強くても、魔法なんて手に負えるわけないでしょ!」
「いやぁ、大丈夫だと思うけど。
それに月村邸だし」
「いくら防犯システムがすごくても、限度があるでしょ」
「仮にも夜の一族の家だし」
「夜の一族?」
アリサは何それといった感じでこちらをみる。しまったこれは言うべき話じゃなかったか。
「……いや、そうじゃないかと思っているだけだ。
この世界のあの人たちがそうとは限らないし」
どうしたものかと思考をめぐらす。
すずかとアリサは親友だ。だが、その親友にすら言いたくないことだってある。
問題はすずかが夜の一族のことをどう思っているかか……
誇りに思っている場合ならいい。だが、もしよれに引け目を感じていたら?
「それについては本人から聞く方がいいと思う。
アリサが黒の呪文を使えるようになったら、俺から教えてもいいがな」
適当に条件をつけて巻くのが吉というものだろう。そういう繊細なところには正直かかわりあいたくない。
もっとも、条件についてはあながち出鱈目というわけではないが。
黒の呪文は主に死をつかさどる呪文。クリチャーもゾンビや吸血鬼など暗いイメージばかりだ。
だが、所詮それはひとつの力の形。そこには善も悪もない。つまりはそれを誰がどう使うかということだ。
すずかがアニメ通り、俺の想像通りの人間なら、夜の一族の力を悪いことに使わないはずだ。
アリサはそのことを分かっていると思う。だけどもし、その期待がはずれてアリサがすずかを嫌うことが起きたときのことを考えると怖い。
だから、負の印象を持つ力でもようはそれを使う人間によるのだということを彼女に身をもって知ってほしかった。
「……分かったわ。本人に聞いてみる。
でも、それは黒の呪文を使えるようになってからするわ」
「ありがとう」
「なんで、良也が礼を言うのかわからないけど、それで結局どうするわけ」
「それは……」
アリサの目はついて来いという風に語っている。
「分かった。ついていくよ」
あちらも譲歩したのだ。こちらも譲歩するしかないだろう。
俺は仕方ないと天を仰いだ。