第二十四話 海上の決闘

「二十一世紀にもなって、決闘というものが存在することについてどう思う?」
「どうって聞かれても、正直困るわね」
 ふと思いついた疑問を口にすると、アリサは眉をひそめながら答えた。目の前にあるモニターの前では二人の少女が対峙していた。過去に何回も見た光景ではなるが、今日は双方の気迫は全く違った。主に言えばなのはの方だ。彼女は今までフェイトに対して攻撃するのを躊躇していた節があったのだが、今日はそこに全く迷いが見られない。
 そのことは戦う上で、非常に良いことなのだろう。戦う上で迷いが出ると、それは隙へとつながっていく。野球の試合だってそうだ。ピッチャーがボールを投げるコースに疑問を感じたりすれば、自然と球速は落ち、バッターに打ち取られてしまうだろう。逆に言ってしまえば、技量のよくないバッターといえども、ピッチャーに迷いがあれば、ヒットを撃つことはありえるということだ。
 そう、迷いを持たないのはいいことだ。いいことなんだが……
「アリサ、俺は正直戦慄しているんだ。やっぱり本物は迫力が違うと。
 正直言って、次に彼女が俺の前に来たとき、普通に話せるか自身がない。
 お前、よくあんなモノをからかうことが出来たな」
「言わないで、自分でもいま少し恐怖しているんだから。
 今後は少し自重しようかしら」
 そう言ったアリサの額には汗がにじんでいた。それもそうだろう。あんな砲撃を目の前で見せられれば、ごく一般人は誰だってそうなると思う。なにより恐ろしいのがそれを躊躇なく人に撃っていると言う事だ。かつて、遠目でディバインバスターを一度だけ見たことがあったが、管理局のモニターで見ると、その迫力に思わず気圧されてしまう。果たして、ディバインバスターでこの威力なら、スターライトブレカーとはいかほどのものなのだろうか? 想像するだけで恐ろしい。
「君達は相当余裕だな」
 そんな俺達に話しかけているのは、むっつりとした表情のクロノ。しかし、お前は勘違いしている。
「いや、あんな恐ろしいものを見せられて余裕はないんだが」
「その反応が余裕だと言っている。
 二人の技量は同じ、いや恐らく相手の方が上だ。
 なのはは負けるかもしれないんだぞ」
「いや、でもこの勝負はどっちに転んだところで管理局に害はないだろ。
 目的はプレシア=テスタロッサの居場所を突き止めることなんだから」
 そう言うとクロノは「ああ、そうだな」と言い黙りこんだ。そう、この戦いは管理局の人間にとってはどちらが勝っても良い戦いなのだ。なのはが勝てば、そのまま力尽きたフェイトを逮捕することが出来、フェイトが勝ったとしても、相当なダメージを受けている彼女の身柄を簡単に確保できる。そして、それを後ろについているプレシアが見過ごすかと言えば否だ。
 この前のように何らかの形で干渉してくることは確かだろう。そして、その時管理局はプレシアの居場所を特定するつもりなのだ。
 この戦いはどっちに転んだところで、管理局にとって損はない。もっとも、管理局にとってだが。俺達の場合は事情が異なる。俺達にとってもっとも忌むべき事態はこの話の流れが自分達の予測のつかないところにいく事である。この事件に干渉するにしても、最高の結果を出すために、ギリギリまで流れがそれることが起きるのはまずい。つまり、なのはに買ってもらわないといけないのである。もっとも、そのための下準備はすでにしてあるのだが。
 『栄光の賛歌』という名のエンチャントカードがある。これは味方のクリーチャーを永続的に強化する呪文だ。白のウィニーあたりによく使われるカードではあるが、実はそのエンチャントを彼女達の戦闘空域にこっそりと張っていたのだ。これによりなのはの力はいつもより多少上がっている。
『受けてみて、ディバインバスターのバリエーション。
 スターライト、ブレェェェカァァァァ』
 画面の中でなのはが叫ぶ。それと同時にあふれるのは桃色の魔力光。その威力は激しく、フェイトをつき抜け海をも砕く。
「なんというバカ魔力」
「フェイトちゃん、生きてるかなぁ」
 一緒に観戦しているクロノとエイミィがそれぞれ呟いた。つまり、なのはの魔法は管理局に勤めている二人もめったに見ないようなものだったのだろう。いや、あんなものを撃てる奴が、そこ等かしこにいたら困るが。というかエイミィ、生きているかなという感想は分かるが、あまり言ってはいけない様な気がするよ。
 桃色の光もやがて収まり、通常に戻った視界の中、フェイトがゆっくり崩れ落ちた。なのははそれを追い、フェイトが海に落ちる前に受け止める。なのはがフェイトに勝った瞬間だった。一瞬だけ気を失っていたフェイトは目覚め、フラフラだが自分の力で宙に浮く。そして、フェイトは決闘の約束どおりにジュエルシードを渡そうとするが……
 次の瞬間、紫色の稲妻が彼女を貫いた。差し出したジュエルシードは中に浮き、転送されていく。
「ビンゴ、しっぽ掴んだ!」
 声を上げるエイミィにクロノがすばやく指示を飛ばす。
「すぐに座標の割り出しを!」
「もうやってるよ」
 艦内があわただしくなる。武装隊を時の庭園に送り出そうとしているのだ。リンディさんの声の元、次々に魔導師が突入していく。
 物語は最終局面に突入しようとしていた。

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