第二十五話 時の庭園

 時の庭園へと突入した武装隊が目にしたのは、バイオ液につけられたフェイトと同じ外見を持つ少女だった。
「アリシアに近づかないで」
 バイオ液のケースの前に立ち並ぶ武装隊に対してプレシアは叫ぶとその手から紫色の稲妻を放つ。大魔導士の放つ攻撃魔法に、並みの防御力しか持たない武装隊の面々は沈んでいった。狂ったように笑うプレシア。いや、彼女は実際狂っているのだろう。彼女の口からは恨み事のようにフェイトの出生が明かされていく。
 フェイトがアリシアのクローンであること。アリシアを生き返らそうとして、できた失敗作であることなど。
 失敗作。確かに技術者が目的と沿わないものを作れば、それは失敗作と言えるだろう。しかし、それは、その作品がフェイトのような心を持った人間だった場合、言ってはいけない事だ。
 フェイトの顔色が悪い。いや、こんなことを聞かされて平然としていられる人間はそうは居ないだろう。自分のこととなればなおさらだ。彼女はひどく傷ついていた。だが、そんなことはこの狂った大魔導士にとってどうでもいいことなのだろう。彼女は追い討ちをかけるかのように、決定的な一言を言い放つ。
「いいことを教えてあげるわフェイト。
 私はあなたのことがずっと大嫌いだったのよ」
 フェイトの瞳から光が消えた。体からも力が抜け、まるで糸の切られたマリオネットみたいにその場に崩れ落ちた。
「クロノ。出撃許可を頼む」
 その姿を見て、自然とそんな言葉が口から出ていた。武装隊の面々があっさりと負けるような大魔導士。正直勝てるとは思っていない。だけれど、こんな風に傷ついた少女を見て何もしないのは嘘だと思った。
 もともと、こうする予定だったのだから、準備はとうに整っている。手にするのは召喚用の符。俺の作った何十というカカシを召喚するためのものだ。もちろんこれらを一気に召喚するのは、引きだすマナが足りない。しかし、このときのことを想定してアースラ内にあらかじめ『マナの反射』をはってあった。
『マナの反射』それは術者がマナを引きだす場合、変わりに2倍のマナを供給するエンチャントである。それらを用いて冷徹の心臓から得られる魔力を増やし、術符へと供給した。
 その瞬間、足元に大量の魔法陣が浮かび上がる。そこから這いだすのは、一見ガラクタにも見えるアーティファクトクリーチャー。
何十ものカカシを従え、俺は時の庭園へと降り立った。
 かつては美しかったであろう荒れた庭先に立ち思う。ああ、ここでは幸せというものが過去の存在だろうと。それほどまでに、この荒れた庭先に寂しいものを感じていた。
 その庭先を横目に通りすぎ、前に進めば何十という鎧の兵士が立ちふさがる。こちらのアーティファクトクリーチャーと同様の魔力を原動力とするものだ。それらは一斉にこちらに飛びかかってくるが、突如飛んできた炎に、魔弾に吹き飛ばされた。魔力の発生源を見れば、そこにはアリサになのは、クロノそしてユーノの姿が見える。
「亮也、何一人で進んでいるのよ」
「そうだ、少し冷静になったらどうだ」
 アリサとクロノが口々にそう言った。そこで、自分が柄にもなく熱くなっていることに気がついた。
「ああ、すまない。大丈夫、少しは冷静になったよ。
 そこで冷静な頭で考えてみたんだが、これらの相手は俺が適任じゃないかな?」
「確かに、数には数ということで、君が一番よさそうだろう。でも一人じゃ大変だろう。
 僕も残るとしよう。他は先に進んで最上階の駆動炉にいってくれ。
 こちらは数が減り事態、プレシアの逮捕に向かうから」
 俺の意見に賛同を見せた後、クロノはそう言って杖を構えなおした。皆もそれに肯いて、先へと飛んでいく。さあ、それでは始めるとしよう。
「執務官殿はここから射撃でしとめてくれ、絶対に近づけさせないから」
「了解した」
「じゃあ、いくぞIt’s harvest time(さあ、刈りの時間だ)」
 俺の掛け声と供にクロノが魔力弾を五発撃ち放つ。それらは相手の一番前の軍団に辺り、その腹に穴を空けた。そこにすかさずカカシを四体送り込む。それらの名前は見張り翼のカカシ。特定の条件化で飛行能力を持つクリチャーだ。その特定の条件とは、こちらが青色のクリーチャーをコントロールしていること。また、白色のクリーチャーをコントロールすことにより警戒能力を持つ。こちらが今現在コントロールしているのはアーティファクトクリーチャーだけ、色を有しているものは居ない。しかし、
「いくぞ、屑鉄カゴ」
 冷徹の心臓からマナを取りだすと、隣に待機している屑鉄カゴへと供給した。屑鉄カゴは虹色の光を放つ。屑鉄カゴが自身の能力によって、すべての色のクリーチャーへと変わったのである。その瞬間、地面をはっていた、カカシは空に舞いあがり、鎧めがけて突進した。
 ガキンッ ガキンッ
 何十もの硬い音が上空で響く。しかし、力は相手の方が上らしい、こちらのカカシは徐々に押されてきた。
「おい、大丈夫か? 押されているぞ」
 それを見て、隣で射的に集中していたクロノが疑問を口にした。その疑問に俺はポケットから四枚のカードを出して答える。
「なに、これからさ。『巨大化』」
 術符を発動させた瞬間、最前線で戦っている見張り翼のカカシの体が肥大化した。それにより、見張り翼のカカシと戦っていた鎧はあるいは壁との間に挟まれ、あるいはその巨体にはじかれていく。
「コントローラーが何も手を出さないクリーチャー負けるほど、やわじゃない」
 MTGだったら、これを発動させる瞬間に打ち消されるか、クリーチャーを焼かれていただろう。だが、プレシアは今現在アルハザードへ行くための準備に追われて、こちらを見ている余裕はない。思考するものが居ないゲームに負けるつもりはさらさらなかった。

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