第二十九話 鉄槌の騎士と刈り取りの王 前編

 結界を越えたそこはまさに戦場だった。
 空を飛び交うのは幾数もの魔力光、その中でもひときわ大きいいくつかは魔導士本人であろう。特に紫色と黄色の魔力光のぶつかり合いが激しい。あれはシグナムとフェイトか?
 遠目ではよく見えないがおそらく間違いないだろう。また、そこから少し離れた所に、赤色と緑色の魔力光が見えるがそれはヴィータとユーノに違いない。フェイトとユーノ、どちらの加勢をすべきかをしばし考え、ユーノの方へと向かうこととする。
 右手に構えるのは召喚用の術符。まだあちらがこっちを発見しないうちにそれを発動させる。魔力が迸った瞬間、現れるのはガラクタで出来た申し訳ない程度に鳥の形をした人形が四体と、鉄のゴミ箱に手足をくっつけただけの人型の人形だ。
 前者の名前は見張り翼のカカシ、特定の条件下で飛行を持つクリーチャーである。そして、後者の名前は屑鉄カゴ、すべての色のを持つことが出来るクリーチャーで俺が初めて作ったアーティファクトクリーチャーだ。
 計五体のクリーチャーが無事召喚されたことを確認すると、俺は屑鉄カゴへと魔力を供給し、屑鉄カゴの能力を発動させた。その瞬間、見張り翼のカカシが空へと舞い上がる。見張り翼のカカシが飛行を持つ条件は青色のパーマネントをコントロールすること。屑鉄カゴがすべての色を持ったために、その能力が発現したのだ。
 決して飛ぶような形状でないものが空を飛ぶ光景は何時見てもおかしな気分になるが、そんなことは頭の隅に追いやると屑鉄カゴはその場に待機させ、見張り翼のカカシと共に赤い光と緑の光が交わる地点へと向かった。
 近くまで寄ると、戦況はよりいっそはっきりする。やはりユーノが押されているらしい。ユーノはサポートが得意な魔導士であり、矢面に立つものではない。真正面からのガチンコ勝負は荷が重いだろう。
 俺は引き連れた見張り翼のカカシに指示を出し、散会させるとユーノの横へと行き「一応助けに着たぞ」と声をかけた。
「亮也さん、来てくれたんですね」
「本当は来たくなかったんだがな、立場上来なくちゃいけない気がして」
「……そこは嘘でも心配してと言いましょうよ」
 本音をいうとそう突っ込まれた。さすが元祖つっこみキャラだ。魔法少女のお供はやっぱりこうじゃないといけない。
「なんだてめえは」
 妙なところで納得していると、横から突き刺さってくるのはトゲのある声。外見に似合わない鋭い目をした幼女、ヴィータである。
「しいて言うなら、愛という陽炎を追い求める平和の狩人って言ったところか。
 もしくは刈り取りの王とでも呼んでくれ」
 しばし考えた後、そう答えるが彼女はどうにも気に入らなかったらしい。「なめてんのか」と一言吼えると、手に構えた戦槌を構え、こちらに殴りかかってきた。だが、あえて言わせてもらえば、俺は彼女をなめてなんぞいない。それこそ自分よりは数段上であることを理解しているつもりだ。こんなふうにな。
 彼女の意識が俺に集中した瞬間、散開していた見張り翼のカカシを密集させる。密集ポイントは鉄槌の騎士、ヴィータ。それもちょうど死角となうような背後と上下からだ。
 しかし、こちらがカカシの方へと目をやったのがいけなかったのだろう。彼女は俺の視線から背後に迫り来るものを感じ、すぐさま飛ぶ方向を変えた。その瞬間、彼女の進路上だったところを上下から三体のカカシが通り過ぎていった。そしてその後遅れて背後を追っていた一体のカカシが通り過ぎる。
 当たるとは初めから思っていなかったが、その判断力に舌を巻く。やはり加勢になど来なければ良かったかもしれない。
「ユーノ、お前はこの結界を破る合間でいい。
 危なくなったらサポートを頼んだぞ」
 しかし、来てしまったものはもうすでにどうにもならない。時間なんてものは止めるのがせいぜいで巻き戻せたりはしないのだから。そうユーノに言うと、ポケットの中から一枚の術符を取り出した。

- 目次 - - 次へ -

inserted by FC2 system