第三十三話 ほとばしる魔力

 ある日の夜、アースラから連絡がきた。内容は出動の要請。街の上空で捜索指定の対象を発見したらしい。何十体となるカカシを引き連れて、俺はそこへと向かうことにする。だが、その途中転移魔法の術式を整えながらもしばし考える。この場で自分はどう動くべきなのかを。
 自分達の目的を達成させるためには闇の書の完成は必須の条件。その意味では守護騎士達の行動を妨げることは上策とはいえない。本音を言ってしまえば、このまま事の推移を見守ることに専念したいところだ。しかし、自分の立場はそれを許さない。
 この事件に正式に関るために、自分は操作の協力を申し出てしまった。ならば、やれることと言えば、せいぜい手を抜くことくらいだろうか。とはいっても……
「自分の力がそれほど通じるとは思えないがね」
 自分の力不足に今更ながら自嘲する。必死こいて作ったカカシもこの戦闘でいくつもの損害が出ることだろう。製作者としては悲しいことだが仕方のないことなのだろう。
 現場へと到着したとき、すでに戦闘は開始していた。俺が現場についたのは一番最後だったらしい。フェイトはシグナムと、なのははヴィータと、アルフはザフィーラと闘っている。何処に加勢すべきかと思案ながら結界内に入ろうとところで、遠くの方からクロノが近づいてきた。数歩手前まで彼が近づいたところで問いかける。
「状況は?」
「見ての通り、なのは達が一対一で闘ってくれている。
 僕たちの仕事はその間に、近くにいるだろう闇の書を持っている主なり、残りの守護騎士なりを探すことだ。
 ユーノにはすでに中を探してもらっている。君は僕と一緒に外を探してくれ」
 そこまで聞いたところで、アニメでそのような場面があったことを思い出した。確かクロノがこの場にまだ見えない守護騎士、シャマルに向かって杖を背後から突きつけていたシーンがあったはずだ。武装の解除を求めたところで仮面の男に吹っ飛ばされていたが、この場で問題なのはその後、シャマルがこの結界を破るために闇の書のページを使っていたところであろうか。
 闇の書の完成を急ぎたい身としてはそれはいただけない。ならばやれることといえば……
「クロノ、大規模な捜索魔法を行いたい。そのためには大量の魔力が必要だ。
 場が乱れると思うが、勘弁してくれ」
「場が乱れるの意味は分からないが、かまわない」
 その答えに内心にやりとほくそえむ。免罪符は得た。取り出す術符は『ほとばしる魔力』だ。すぐさまそれを発動させる。
「な!」
 その瞬間、クロノから驚きの声が上がった。おそらく自らの身に沸き立ってくる魔力に驚いているのだろう。
 先ほど俺が使った『ほとばしる魔力』は魔力を引き出すとき、余剰に魔力を引き出させるという効果を持っている。魔力の取り出しを自分の意思で行える神河式の魔導士としては違いリンカーコアという器官で魔力を常時無意識引き出しているミッドチルダの魔導士としては
自らの身に軽い魔力暴走を感じているだろう。
 その瞬間、結界が歪む。
 おそらくそれを維持している武装局員達が、自らの魔力を上手く制御できずいるためだろう。それを支えているのが一人の魔導士だったのなら問題とはならなかっただろうが、何人もの魔導士が共同で維持しているということがこの原因だった。
 今、突如の魔力暴走にある者は力を調節しようと自らの魔力を抑えようとして抑えすぎ、ある者は自分の力を抑えきれず過剰の力を加えている。結界を皆で支えるということは、例えるならば重い荷物を皆で支えるのと同じものだ。荷物を支えている者の力がこのように
不拮抗を生ずれば、荷物が傾くのは道理。それと同じように結界に加わる力のバランスが崩れてしまっているのだ。
 そして、この状況で結界を崩すのは容易い。
 緑色の魔力光が輝いたかと思うと、結界はあっさりと破れた。そのことに内心ガッツポーズをとる。後で責任を追及されそうだが、こちらにはクロノの許可を得たという事実がある。責任は最悪彼と折り半になるだろう。それにこれは互いの認識不足による『事故』のようなものだ。そこまで攻められることはあるまい。
 結界が破られた瞬間、クロノはすぐさま動いた。さすがアースラの切り札。この環境にあっさりと適応している。彼は緑色の魔力光の発生源に向かい、闇の書を持つシャマルへと迫った。だが、そこへ邪魔が入る。クロノの視界の外から現れるのは仮面の男。サイドから突然入れられた蹴りにクロノはあっさりと撃墜された。
 その間にシャマルは逃亡し、仮面の男もすぐさま消えうせる。
 俺は責められた時の言い訳を考えながらアースラへと帰還することにした。

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