閑話7

 事態は着々と進行している。
 ヴォルケンリッターによる連続魔導士襲撃事件の件数は伸びており、その事件を解決するための本部が海鳴の街に作られた。ついこの前、アリサのクラスに嘱託魔導士でもあるフェイトが転校して来たらしい。
 物語は着々と進行している。闇の書のページが集まるのは十二月の二十五日、クリスマスイヴのはずだが早まることも考慮に入れなければいけない。そう考え、自分の戦力増強にとカカシを組み立てる日々を送っている時のこと、俺はなぜか月村邸へと呼ばれた。
 客間に通されて月村家のメイド、ノエルさんにお茶を出される。そして紅茶を啜ることしばし、やがて長い髪の女性が入ってきた。
 面識はある。こうして会うのは二回目。月村の現当主である月村忍だ。自分のもっている情報では彼女はかなりのマッドサイエンティストだと認識している。
「急にお呼び出ししてすいません」
 語る言葉は必要以上に丁寧。それが彼女が自分を警戒しているのを分からせる。
「いえいえ、このようなお茶会に呼ばれるのは光栄ですよ」
 だからこそこっちもキザッたらしい言葉で返した。この場にアリサがいたならば、似合わないとすぐさま突っ込んでくれただろう。
「ですが、こちらとしても時間が余りありませんので、本題に入っていただけると嬉しいのですが」
 時間がないのは本当のこと。こちらは一体でも多くのカカシを作らないといけないのだ。このように悠著に話している時間は惜しい。忍さんを見る。彼女は笑顔を浮かべていたが、その目の眼光は鋭かった。
「でしたら、単刀直入に聞きます。
 夜の一族のことを何処でしりましたか?」
「それが、そんなに重要ですか?」
「ええ」
 質問に質問で答えると彼女は即座に頷いた。それほどこのことは彼女にとって、いや、彼女達一族にとって大切なことなのだろう。だが、だからといって本当のことを言うのは憚れた。もとい、たとえ話したとしても信じてもらうことは難しいと思う。そう、誰が信じようか。あなた方はとある平行世界で物語の人物なのですよと。
「何も、あなた達が最初から夜の一族と分かっていたという訳じゃありません」
 だからこそ言葉を濁した。相手の受け入れやすい言葉を並べていく。
「職業柄、人の持っている属性には敏感でして。あなた達からは黒の気配が感じた。
 ただそれだけです。後は経験からそのような人物を照合して、夜の一族と判断したというわけです」
 魔導士が独自の魔力光を持っているように、人にもそれぞれの色がある。MTGの影響か、俺はそれを五色に分けて理解をしているのだが、今の言葉はもちろん嘘八百だ。別に彼女から黒マナの気配を感じないということはないが、そんな人間はごまんといる。
「前にもあったことがあると?」
「ええ」
「その方はどこに?」
「さあ、最後まで彼の名前を聞きませんでしたから」
 そこで忍さんは俯いて考え込んだ。何を考えているのかは知らないが、それがこちらの害になることがないと信じたい。
 再びカップに口をつける。いい茶葉を使っているのか、非常に香りが良いそれを飲み干すとソーサーに置いた。すかさずノエルさんがポットを差し出してくるが、それをやんわりと断わった。
「話が以上なら、自分は帰らせていただきますよ」
 そう言って、懐から出すのは一枚の符。それに彼女達は身構えた。とは言ってもそれは見た目たいした変化はない。ただ、すぐに動けるように重心の位置をずらしたくらいだ。
「そんなに警戒なされなくとも結構ですよ。
 自分から言えることは一つ。私のことは信じられなくとも、アリサのことは信じてあげてください」
 そう言って、俺は術符を発動させる。真っ白な光が迸った後、目の前に広がるのはバニングス邸の自分の部屋だった。
 彼女達があれで納得してくれたと思いたい。忍さんと対峙するということはすなわちその恋人である恭也さんを敵に回すということ。御神の剣士と戦うことだけは避けたいものだ。
 だが、その思考もそこそこに、俺は途中だったカカシ作りの作業を開始した。

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