第一話 兆し、されど今は何気ない日常

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 夢を見ている時、ああ、これは夢だなと気づくときがある。
 今回のこれもそうだった。
 目の前に広がるのは広大な砂漠。
 時刻はいつくらいだろう。東の空が白み始めている所を見るところ三時か四時くらいであろう。
 そんな早朝の砂漠を一人の男が歩いていた。
 砂漠を歩くことには不慣れならしく、その歩みはどことなくぎこちない。しかし、弱々しさは感じられなかった。
 男の顔は分からない。体をすっぽりと覆う砂よけ外套で隠されているからだ。
 ただ、外套では隠しきれない目許からは彼の瞳が青色ということだけは理解できた。
 彼は剣を杖代わりにして砂漠を歩く。
 時折、風が強くなるが彼は気にしない。ただ、黙々と二つの足をかわるがわる前後へと動かしている。
 そして、どの位歩いただろうか。朝日がすっぽりと顔を出している所を見ると2時間くらい立ったくらいか。
 その頃になって、ようやく男は足をとめた。
 周りを見渡しても砂の海。彼が気に掛けるようなものなどない。
 しかし、男はそこで足をとめ、なおかつ彼を覆っていた外套を脱ぎ捨てた。
 あらわになるのは男の顔と漆黒の鎧。重いメタルアーマーではなく、起動性を重視したレーザーアーマーだ。
 男の顔のほうは端正といっても良いところだろう。
 並みより上ともいう。しかし、その表情は普通ではなくとても複雑だった。
 どう言えば良いのであろう。喜び、怒り、哀しみ。正の感情と負の感情が見事なまでに入り混じったおぞましくもあり、聖者にも見える表情を浮かべている。
 それもそうだろう。彼はこれよりもっとも敬愛し、もっとも侮蔑し、そしてもっとも殺したい者に会いに行くのだから。
 分かりもしないはずの男の感情が俺には手にとるように分かる。
 いや、分かるのは当然だ。
 なぜならこの男は■なのだから。

 


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