第三話 変化、されどまだ日常は続く

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「ありがとうございました」
 笑顔の店員に見送られて店を出る。時刻は午後四時くらい、まだまだ日は照っていて明るい。
「さてと、帰るか」
 しかし、特にすることも無く、俺は住宅地に向かおうとするが、
「あ、ちょっとお茶でも飲んでいこうよ。
 お礼におごるから」
と言って澄香は引きとめる。
「いいのか? 」
「うん、このまえ智子ちゃんにおいしい喫茶店教えてもらったんだ」
 よほどその喫茶店が気に入っているのか、彼女はうれしそうに話し「こっちだよ」と俺を先導する。
 彼女に言われるままに俺は歩きだす。
 彼女の言う喫茶店は聞くところによると、どうやら商店街の東口の方にあるらしい。
 現在位置は商店街の南の方にあるわけだから中央の広場までいってそこからいけばいいだろう。
 何気ない話しをしながら彼女とともに歩く。この街の商店街はちゃんと同じ種類の店が並ぶように作られているため、見える景色はグラデーションの様に変化をしていく。これじゃあ新しく入ろうとする店は大変だろうと眺めていると、気付いた時には中央広場についてしまっていた。
 この商店街のシンボルであるこの中央広場はそれなりの大きさを有しており、中央に大きな噴水があるのが特徴だ。
 そこでは時間の流れにつれ、いろいろな人達が訪れる。
 夕食前のこの時間は、夕食の買いだしに来た主婦達の姿がちらほらと見える。おそらくは買いだしもある程度すみ、夕食の支度までにあまった時間を噂話で消費しているだろう。
「あら、正くん。今お帰り?
 今日は澄香ちゃんと一緒なのね」
 そのグループの中の一つからこちらへと声がかけられる。この少し甲高い声は二つ隣の部屋に住んでいる吉田さんか。そう予測をつけ、声のしたほうをふり返ると予想通り吉田さんと彼女と仲の良い藤村さんと加藤さんがいた。
「こんにちわ。
 はい、ちょっと彼女の買い物につきあってて… 」
「あらあら、若いっていいわね」
 俺がそう返すと藤村さんはすぐそんな言葉を言ってくる。
 俗に言うおばちゃんの若いっていいわね攻撃だ。でも、
「若いって、藤村さんってまだ二十三じゃないですか」
 まだ三十も過ぎないような若奥様の台詞ではないと思う。
 しかし、そう言った所で藤村さんは「あら、でもわたしよりは若いじゃない」と返してきた。
 相手の方が一枚上手か。
「確かにそうですが世間一般的に言えば藤村さんも若いじゃないですか」
「あら、若いだなんてこんなおばさんくどい手も何もでないわよ。
 私には夫がいるのだから… 」
 なんでそんな風に話しが飛ぶんですか。俺はどう返そうか困っているとそこで、
「藤村さん、その辺にしといてあげないさい。
 正くんが困ってるでしょ」
と佐藤さんが助け舟を出してくれる。しかし「せっかくのデートを邪魔しちゃわるいわよ」と言う言葉は余計だ。
 藤村さんもそれに同意して「それもそうね」と引く。ここで違うと主張してもいいのだが、そうすればまた余計な話に飛ぶのは日を見るより明らかであろう。
 俺は仕方なく笑顔で「それではまた今度」とだけ言い残すと澄香を連れその場を後にした。


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