第三話 変化、されどまだ日常は続く

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「ここか」
 そう呟いて俺は澄香に案内された建物を観察した。
 おそらく材質は鉄筋コンクリートだろう。壁に焦茶色のタイルの貼り付けてあり洒落っ気をだしている。
 多分、ドイツのカフェテリアをモチーフとしたのだろう。店の前には大きなパラソルつきのテーブルと椅子があるが、この日本の商店街の真中の道中でお茶を飲むのは皆気が引けるのだろう。パラソルは閉じられ飾りへとその姿を変えている。いや、もしかしたら最初から飾りにするつもりで配置したのだろうか。
 入り口の上にある看板はうまい具合に蔦が絡みついておりそこには『Da Sein』とスペルが刻まれている。
 総合的になかなか良い雰囲気の店だ。しかし、問題なのは、
「なあ、おもいっきり閉まってねえか」
「う、うん」
 そう、その店は思いっきり閉まっていた。入り口のドアの所には思いっきり『CLOSE』と書かれた木の札がぶら下がっている。
「定休日かな? 」
「…みたいだね、ごめん」
 澄香は心底残念そうに『CLOSED』の掛け札を見つめ謝る。
「まあ、休みだったら仕方がなって」
 あまりにもしょんぼりしているのでそう慰めてみるが、あまり効果は無いようだ。彼女はじっと『CLOSE』の掛け札を見つめたままである。
「まあ、いいさ。今度またおごってくればいいから」
「うん、ごめんね」
「だからいいって。
 そうだ、なんかおごってやるから元気だせよ」
「それじゃあ、本末転倒だよ」
 俺の言葉に彼女はそう言って苦笑する。確かに彼女の言う通りなのだが、そんなしょぼくれた顔をされればそう言いたくなってしまうから仕方が無い。
 店が休みだったのはどうしようもないことだし、いつまでもここにいる訳にもない。
 確か、中央広場に出店くらいは出ているはずだ。
 俺は「広場に戻ろうか」と言おうとしたが、それは「ひょっとしてお客さんかな?」という男の声によって止められた。
 ふり返ればそこには紙袋を抱えた二十台後半位の男が立っていた。身長は百八十位だろうか。髪はきれいに切りそろえられているのだが、逆にひげはあまり剃られておらず、俗に言う不精髭となっている。しかし、それでも不潔な感じを受けないのは男の顔が整っているためであろう。
「ああ、怪しいもんじゃないよ。
 僕はそこの店の店主だから」
 こちらの視線が気になったのか彼はそう返してくるが見れば分かる。男の格好は白のカッターシャツに黒のパンツというフォーマルな格好なのだが、その上に店の名前が印刷されたエプロンを掛けているからだ。
「えっと、今日って開いてますか? 」
 澄香はどこか恐る恐ると言った感じで男に聞く。男のこの格好を見る限りでは今日は定休日では無いのであろう。もし、定休日の日までこんな格好をしているのなら見上げた商売根性だ。しかし、となるとこの男は今までどこに行っていたのだろうか。男の様子を見るところによると買い物であろうか。
「ああ、開いてるよ。
 ごめんね。ちょうど卵がきれちゃってて、今買いだしに行ってきたんだ」
 どうやらその通りらしい。
 彼は「どうぞ、待たせちゃった分だけサービスしとくよ」と言うと木の札を回し、裏の『OPEN』の文字が出るようにするとそのまま店へと入っていった。俺達も彼に続くが、鍵閉めてなくて大丈夫だったのか? 
 そんな言葉が頭をよぎったが気にしないことにした。


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