第三話 変化、されどまだ日常は続く
6
ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン
柱時計が六回鳴り、午後六時を告げる。
居心地よかったため、ついつい時間が経つのを忘れてしまったようだ。
あれからずっと同じような会話をしていたのだが、他の客が来るようなことは無かった。
「さてと、そろそろ帰らなくちゃな」
「うん、そうだね」
俺の言葉に同意し、澄香は席を立つ。
「ありがとう、二人で千円だ。
今日は楽しい時間を過ごさせてもらったよ」
そう言うマスターに俺は「こちらこそ」と答えると野口英世の印刷された新札を渡した。
そして、荷物を持ち、笑顔の男に見送られつつ店を出る。
店の外は夏も近づいていることもあり、日はまだ明るい。
「あっ」
そして、家への帰路を歩きだしたところで、澄香は何かを思い出したかのように声をあげた。
「うん?
どうした? 」
「私がおごるはずなのに正くんにださせちゃった」
あー、そう言えばそうだった気がする。だが、まあいいさ。
「だったら、また今度おごってくれ」
「えっ、でも」
「いいよ」
そう言って、俺は返事も聞かず歩きだす。後ろからは少し戸惑った澄香の声と、最後に「ありがとう」という言葉が聞こえた。