宇宙港にて

 宇宙世紀七十九年。
 前々から不穏な空気が漂っていた宇宙でこの年、ついに旧世紀の大戦以来最大規模の戦争が、いや、それとは比較にならない規模の戦争が始まった。地球連邦から独立を宣言し、宣戦布告をしてきたジオン公国との戦争だ。
 開戦当時、俺は連邦軍の士官学校にいた。こんな戦争、すぐに終わると思っていた。俺だけでなく皆そうだった。
 でも、違った。
 生物化学兵器の類の使用、核兵器の使用、果ては人が住むべきコロニーの地球への落下。そして、人型の機動兵器、MS。
 歴史上類を見ない悲惨な戦争だ。軍人だけでなく、何の罪もない非戦闘員である民衆が無差別に戦争に巻き込まれていった。一体どれ位の人がその尊い命を奪われたのか。報道される犠牲者の数に皆目を疑った。百、千の単位ではなく、万、十万の単位で死者数が発表されたのだ。
 士官学校で戦況を聞くたびに怒りがこみ上げてきた。一日でも早く戦場に立ちたかった。俺の知っている人も何人も死んだ。その連絡を家族から受けるたび、怒りが憎しみに変わっていくのを自分自身感じていた。
 そして、ついに士官学校を卒業し、初任地につくことになったのだ。
 俺は今、地球へ向かうためのシャトルを待っている。今だ制宙権はジオンのものだ。そのなかで地球に降下することは危険が伴う。
 この小さなロビーでのひと時が俺の人生の最期にならないことを心の奥底で願っていた。
「おい、アマダ。お前も地球に降りるんだろ? どの辺なんだ?」
 俺の向かいに座っている青年は士官学校の同期、シロー・アマダ。少尉だ。同じ東洋系、日系なので士官学校でもよく話をしていた。軍人として優秀かどうか俺にはわからないが、士官学校においては俺などより遥かに良い成績を残していた。それだけではなく、人間としても男としても一目置ける人物だと思っている。
 彼は戦場に赴く緊張感からか、俺の問いに対して少し遅れて反応した。
「アジアの方だよ」
「そっか。あの辺りもずっと戦闘が続いているからな。気をつけろよ」
 アジアといっても広い。ヨーロッパ辺りの戦闘は激しいし。東南アジアから中央アジアにかけても安定しているはずがない。具体的な場所は言わなかったから、彼がどこの戦場に行くのかわからなかった。

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