グリプスにて


「なんて奴らだ。まだやる気だ」
 数だけの話じゃない。こいつらなんでここまで。ジャミトフは死んだんだ。
 一体何者だ。シロッコってのは。頭が死んだティターンズをきっちり率いるほどの男がいたんなんて。
「くそ、またどこか艦がやられた!」
 何もできない。
 一人じゃ何もできない。
「一番近いのは……ラーディッシュか」
 ラーディッシュまで退こう。そうすれば、まだ何か手はある。
 何か近付いてくる。
 敵機だ。
「どけぇ!」
 あの声。どこかで聞いた。
 どいつだ。
「あのでかいのか!」
 見つけた。
 味方機が交戦している。防戦一方だ。
 間に合わない。
 姿は見ているのに、何もできないまま、また一機ジムUが落された。
 これ以上やらせるわけには。
 俺のネモはまだいける。
「なにぃ!」
 ダメだ。止められない。
 機体性能が違いすぎる。無理だ。退くしかない。
「貴様はカミーユじゃない!」
「こいつ、ジェリド・メサか!」
 返事はない。
 だか、こいつはジェリドだ。
「ちぃ、まずすぎる」
 まともに戦える相手じゃない。ジェリドがここまでやるとは。
 逃げる。
 俺は牽制もそこそこに一直線にジェリドから離れにかかった。
「何とか振り切ったか。いや、あいつ、俺を追う気がなかったのか」
 あの分じゃ、まだカミーユ君を恨んでいるようだな。
 俺の知っているジェリド・メサはくだらん正義感と曲がった理想を抱いた男だったのだが、あれは怨恨の塊だ。
 しかし、どうする?
 俺の母艦は沈んだし、小隊もバラバラ。
 だれかと合流するべきか。
「あれは……」
 Ζガンダムだ。カミーユ君か。
 彼と合流すれば何とかなる。
 違う。俺がいれば足手まといだ。俺の腕じゃ、彼についていけない。
 しかも、少し遠い。Ζガンダムのスピードを考えれば、追いつけないだろう。
 ここは近くにいるであろう、アーガマの守備につくべきか。
「だめだ、アーガマは遠い。それなら、やはりラーディッシュか」
 俺はモニターを隅々まで見回しながら、ラーディッシュのほうに機体を進めた。
「なんだ? あのMSは?」
 モニターに小さく動くものが見える。
 速い。だれかと交戦している。援護しなくては。
 味方機は、ガンダムだ。
「エマ中尉?」
 しかしあっちも距離がある。
 ラーディッシュとそれほど変わらない。
 上部に映る機影はネモ三機。こっちも近くはない。
「どこも中途半端だな」
 決めかねる。
 どこにいくのが最も効果があるのだ。
 考えている時間は無い。
「何だ? あの爆発は、誰か落されたのか」
 続けてもう一つ爆発が起こった。
 今度は光が小さい。遠くはないはずだ。エマ機の付近だと思うが。
 まさか、また味方機か?
 戦場で死ぬのは当然だ。
 だが、知り合いが死ぬのはもう耐え切れない。
「エマ中尉はなんとか大丈夫そうだが……」
 俺はネモ三機のほうへ機体を向けた。
 彼らが一番近い。
 それに厳しい状況だ。確認できるだけでも、六機に囲まれている。
「間に合ってくれよ」
 いっぱいいっぱいまで踏み込みたかった。そんなことをすれば、逆に稼働時間が短くなる。それだけは避けたい。
 馬鹿。止まるな。止まれば狙い撃ちされる。
 三機のうちの一機が敵の動きを追いきれず、動きを止めている。
 そんな。
 やられる。
 ビームライフルの直撃を連続でうけた。あいつは無理だ。
 目をそむける時間も無く、そのネモは脚部を残してバラバラになった。
 それに調子付いたのか、敵機が残りの二機に襲い掛かる。
 まだ距離がある。
 でも、撃つ。
 俺はライフルを構えた。
 増援きたのに気づけば、奴らにも隙ができるはずだ。そこを彼らが一機でも落せれば状況を打破できる。
 先手を打つ。
 ビームライフルはあと五発程度しか撃てない。まだ、換えはあるから、弾切れとはいかないが、交戦中に取り替えるのは危険だ。ましてや、敵のほうが数で上回っているのだから。
 なら、先に五発とも撃ってしまえばいい。そして、近付くまでに取り替えてしまおう。
 俺は適当に狙いをつけた。
 一番近くの敵だ。何て名の機体なのか知らないが、どうせエースの専用機だとか、カスタム機だとかじゃない。
 ライフルをうつ。一発じゃない。三発だ。
「よし!」
 直撃だ。二つ当たった。
 残り二発。
 さっきの目標は右腕部と頭部を損傷させた。もう戦えまい。
 別の機体を狙う。
「コイツも!」
 ダメだ。
 こっちに気づいた別の機体に狙われる。
「すまない!」
「まだ助かっていない!」
 俺は叫んだ。
 敵機が真っ直ぐ突っ込んでくる。
 手にはサーベル。
 俺は狙いもつけずに撃った。
 当然当たらない。当たるとは思っていない。
 最後の一発だ。これを撃てば、次撃つまでには時間がかかる。
 よし、いまだ。
 スイッチを押し込む。これで最後。
「何! 撃てない?」
 敵機が急速に間合いを詰めてくる。
 左だ。
 自分の機体をスライドさせる。
 避けれた。
 だが、敵も離れていない。まだ、サーベルの有効範囲だ。
「このぉ!」
 俺は何も考えずにライフルのスイッチを押した。
 すると、先程は撃てなかったライフルからビームが飛び出した。
 そして、振り下ろしざまに薙ごうとしたサーベルを持った右腕を撃ち抜いたではないか。
 反射的に、ライフルを手放させ、俺はサーベルを引き抜いた。
 後は勝手に振り下ろしてくれた。
 一撃で仕留める事はできなかった。が、敵機の動きが止まる。一時的にダウンしたのだ。
 俺は離れ際にさらにもう一撃をみまった。
 脇を通り過ぎると、すぐに爆発した。
「よし!」
 まだ敵はいる。だが、残りは四、いや、三機だ。
 これで三対三。何とかなる。
「今行く!」
 俺の声と同時にもう一機が味方の攻撃で戦闘不能になった。これで三対二。
 すぐにライフルのエネルギーパックを取替え、射撃に移る。
 敵機は防戦にまわっている。
 別の敵がくるまでに叩かなければ。
 とにかく撃つ。
 下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。
 細かい照準はコンピュータ任せで撃った。
 俺みたいな奴でも上手くいくもんだ。今までこんな正確な射撃ができたことは一度だってない。
 それがこの時はできた。
 当たったのだ。
 これで勝ちだ。
 残りの一機は逃げようとしたところをネモに斬りつけられ、動かなくなった。
「助かった。すまない」
「それより、何か命令は聞いていないか?」
 随分前からこのことが気になっていた。俺の母艦が沈められてからどこからも指令がこないのだ。
「何もない。通信状態が酷いからな」
「そうだよな。あんたたちはどうする?」
 彼らがどこの艦の部隊なのかわからないから何とも言えないが、俺は正直、彼らと共に行きたい。
「ん? その声……あんた名前は?」
 もう一機のパイロットだ。先程、最後の敵機を斬りつけたネモのほう。
「そんなこと後でいいだろ」
 当たり前だ。だが、名前くらいはすぐ名乗れる。
「タケシ・スズキだ」
「やっぱりか。俺だ、トニー・ナイトだ」
「トニー? あのトニーか?」
「ああ」
 トニー・ナイトは俺の同期。昔、左遷されたと聞いたが、こんなところで出遭うとは。
 一瞬、戦闘中だということを忘れそうになった。
 そんな場合じゃない。
「二人とも、向こうだ! ラーディッシュだ!」
 もう一人のパイロットの声で、俺はモニターを見回した。
 いた。ラーディッシュだ。
 ラーディッシュがあんな前に出てきている。
 あれじゃ、狙われる。
 でも、この距離じゃ届かない。
「行くぞ!」
「待て!」
 俺は二人を止めた。
 行っても無駄だ。間に合わない。
「な――」
 トニーが俺に反論するより早く、ラーディッシュは火に包まれた。
「別の艦の援護に向かおう」
 俺たちネモ三機は別の場所に向かった。
 闘いはまだ……

   
 

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