撤退中
「振り切れたのか?」
「さすがにな」
俺たちは何とかグリプス2の宙域を脱出した。
運良く何とかというこの艦と合流でき、今にいたる。
混乱、乱戦の中の脱出だった。
ティターンズの生き残りはそれほどでもなかった。それなのに、この有様だ。
どこに隠していたのか知らないが、アクシズはまだまだ戦力が温存してあったようなのだ。
「でも、これからどうなるんだ」
ハンガーを見下ろしながらトニーが呟いた。
疲れきった顔をしている。俺も似たような面をしているだろう。
「わからん。俺にわかることじゃない」
正直、わからない。それに俺が考えた事なんて外れるに決まっている。
「わかってることは、アクシズが漁夫の利をしめたってことだ」
嫌な連中だ。初めから、こうなることを予測していたのだろう。そうでもなけりゃ、こう上手くはいかない。
アクシズの動きが怪しいのは皆わかっていたが、こうまで見事にやられるとはな。
「そうだよな。ティターンズはほぼ壊滅。残った連中も指導者がいなけりゃ、そのうちあきらめるだろうし」
「ああ。エゥーゴも半分以上の戦力を失っただろう」
エゥーゴも馬鹿だ。こんなになるまでの決戦を仕掛けるなんて信じられない。
「アーガマもどうなったことやら……」
トニーの『アーガマ』という言葉でカミーユ君のことを思い出した。彼だけじゃない。クワトロ大尉や、艦長のブライト大佐。あのファって子もあそこに乗っていると言っていたし。
「……アーガマか」
無事ならいいのだが。
「どうしたんだ?」
「いや、アーガマには知った人がいるからさ」
俺たちの見下ろした場所、ハンガーでは俺たち二人のネモができる限りの範囲で修理されていた。メカニックは休む暇もない。
この艦のMS部隊は帰ってこなかったそうだ。
戦闘開始直後に連絡が途絶えてから、ずっとこの艦は一隻で持ち堪えたのだ。
総出で艦の簡単な修復をしているが、まともに戦える状況じゃない。追いつかれないことを祈るだけだ。
「アクシズはどう出てるんだ?」
俺はわかりもしないことをトニーに聞いてみた。
「知るかよ」
期待していたとおりの答えだ。
何か喋っていないと不安なのだ。
後五分もすれば休憩も終わり。メカニックと一緒に自分の機体の面倒を見ないといけない。
「戦争が続くのか」
終わらせるためにカラバ、エゥーゴとして戦っていうのに、どうして終わらない。終わろうとしないのだろう。
「こうなったら、アクシズの奴らにサイド3をやっちまえばいいんだ。そうすりゃ、おとなしくもなるさ」
「無茶言うな。アクシズっていったらあのザビ家だぞ。また一年戦争みたいな事が起きるだけさ」
サイド3は彼らの故郷だ。それで平和になれば万々歳だ。あそこの人々は今だに連邦を憎んでいるし、ジオンの再興を願う人も多いだろう。
そういった火種にアクシズを放り込めばどうなることやら。
消えるかもしれないが、それどころか大火事になるかもしれない。
軽率な事はできない。これ以上こんな大規模な戦争を続けていれば地球も、月も、コロニーもおしまいだ。
そうは思うが、トニーのように考える人もいるだろう。トニーは本気でそんなこと思ってはいないだろうが、腐った政治家、役人の中には本気でそんなことを考える奴がいるかもしれない。
アクシズも怖いが、やっぱり連邦政府が一番怖い。
「終わらないなあ」
「ああ、終わらんな」
溜息をつくくらいしかやれることはなかった。