ヘイ、ブラザー元気か。
 うん、そうかそうか。それならなによりだ。
 突然だが俺は今すこぶる機嫌がいい。
 え?
 なんでかって?
 それは何故かは知らないけど大歓迎を受けたからさ。
 初め少年達と一緒に行動するのはまったくもって嫌だったんだが、門をくぐれば大勢のお出迎え、それから宴会が開かれた。
 豪勢な食事だけではなく、きれいどころも大量に。
 しかも、その中の一人と結構仲良くしちゃってるんだよ。
 彼女の名前は真由美さんと言って、酒の方もいける口。
 酒が苦手で匂いだけで酔いそうになる俺とは正反対だ。
 しかし、意気投合してしまった俺達は、そのまま彼女の部屋で彼女の友人数名と二次会をはじめたのさ。
 こんな幸せなことは人生で初めてだ。ひょっとしたら今日、人生が終わりそうで怖いくらいだ。
 最近、自分の不幸を嘆いていたが、まさに捨てる神あれば、拾う神だな。
 あれ?
 真由美さんこれなんすか?
 え、ジュース?
 なんかアルコールの匂いがめっさするんですけど。
 いいから飲めって?
 いや、俺酒ダメなんですよ!ぐはっ


健介君は一般生徒です。第五話


 なんだかフラフラする。一瞬気が遠くなったような気がするのだがどういう事だ。
 いかん、どうしてこんな状況になっているのかさっぱり分からん。
 ついさっきまでこれから二次会を今から始めましょうなんて雰囲気だったのにどうしてこんな…「あはははは」「おかわり〜」「おいーす」 飲み会も終盤に差し掛かったような状態になってるんだ?
 というか、なぜ最後の人【いかりや長介】風?
 考えようとするのだが、なぜだか思考がまとまらない。
 くそっ、どうして【いかりや長介】なんだ。
 霞がかかったような頭では答えがでない。
 しかし、俺のことなど置いてきぼりにして宴会は続いていた。
 というか皆さん。そんな湯水のように酒を飲んで大丈夫なんですか?
 とんでもないハイペースに台の上にのっていたドリンク類は全てからになっている。
「わたしぃ、お酒、ヒック、持ってきますぅ」
 そのことに気付き、気をきかせた真由美さんが呂律の回らない口でそう言うとフラフラと立ち上がる。
「というかソフトドリンクもお願いします」
 俺は立ち上がった真由美さん声をかけ、彼女もグッと親指を上げるのだがなぜだか不安だ。
 「ではいってきまーす」と子供のように手を振る彼女をみんなして見送ったのだが、それから十分経っても彼女は帰ってこなかった。
 そのことが気になって俺が探しに行くと言うと、
「いけーい、けんすけ」
「おーう、きせいじじつ、ちゅくってこい」
 などという暖かな声援が投げかけられる。
 ありがとう。みんな。俺がんばってくるよ。
 俺は「結婚式にはみんなをよぶよ」なんて言うと部屋から飛び出していった。
 そんなわけで真由美さんを探して屋敷の中をさまようのだが、この屋敷はやたらと広い。
 酒置き場がどこか分からない俺は千鳥足でフラフラとさまようのだが、いっこうに真由美さんの姿は見えなかった。
 見つかるものといえばたくさんの石像。
 さっきまでこんなのあったか?
 それはもう精巧につくってあって、まるで人がそのまま石像になったようだ。
 そんな風に思いながらも先に進み、適当に障子を開けていく。
 ふう、すげえぜ。どこもかしこも石像ばっかりだ。
 それでも気にせず俺はどんどん障子を開けていく。
 そして、いくつかの障子を開けたところで見つけたのは神棚のある部屋だ。
 その左右には立派な陶器に入ったお酒の姿。
 おお、いいものがあるじゃないか。お酒は見つかったし、後は真由美さんを探すだけだな。
 俺は喜び勇んで酒に手を伸ばすが、重たいものを急に持ったのがいけなかったのだろうか?
 バランスを崩すとそのまま横に倒れそうになる。
 おととと。
 何とか踏ん張ったところで、慌ててもとに戻ろうとするが、今度は逆の方へと傾いてしまった。
 くそう。なんでフラフラするんだよ(A.酔っているからです)
 しかし、そのことがなぜだか知らないがやたらと楽しい。
 ついつい口元が緩み、笑い声を上げようとするが、それは「酔拳か」という言葉に止められてしまった。
 およ、誰かいるのかな?
 そう思い、振り返ってみればいるのは無表情な顔の少年の姿だ。
 あれ、こんな子いたっけなあ。
 俺はうまく働かない頭で思考をめぐらすが、見覚えなど無かった。
 まあ、そんなことはどうでもいい。
 問題は少年が無表情と言うところだ。
 少年よ。なぜそんな、つまらなさそうな顔をしているのかね?
 そんなことでは幸せが逃げてしまうぞ。
 よし、ここはお兄さんが笑わせてやろう。
 ふっふっふ。
「少年、今からとっておきの(ギャグ)を見せてやる」
 俺はそう言うと少年を笑わせるために両手を広げて上下になだらかに振り始める。
 これぞ、セクシーコマンドーの基本の型の一つ。エリーゼの憂鬱だ。
 今から少年がどのような表情をするのか楽しみでたまらないのだが、笑わせるほうが笑ってはいけないという鉄則を守るべく表情を堅くする。
 だが、目が笑ってしまうのは仕方ないだろう。酔った体でそこまで制御できないよ。
 あはははははは。
 さー、後はチャックに手を伸ばすだけだ。
 俺は股間に手を伸ばすのだが、そこであることに気付く。
 というか少年よ。何処行った?
 なんと、今からギャグの決めに入るというのに、少年はどこかに消えてしまったのだ。
 ……
 ま、いっか。
 こんなことをしている暇はない。
 そう、俺には真由美さんを探すという大事な任務があるのだ。
「真由美さーん。どっこでっすかー」
 俺は酒を小脇に抱えると、そのまま部屋を出て行った。



 近衛このかを探しながら、屋敷の中を歩いていると一人の男を見つけた。
 どうやら相当酔っているらしく、その足元はしっかりしていない。
 こいつも石にするか。
 僕はそう判断すると目の前の男を石にすべく、指の先から石化の邪眼を撃ち放つ。
 しかし、それは男にあたることはなかった。
 石化の邪眼が男に当たる瞬間男が横に傾いたからだ。
 ふら付きでもしたのだろう。運のいい奴だ。
 そう思いながら僕は再び男に石化の邪眼再度撃つ。
 だが、それも男の体に当たるすれすれに避けられてしまう。
 一度目は偶然だと思った。だが、二度と避けられればそれは必然だ。
 あの酔ったような独特の動き。あの動きは……
「酔拳か」
 確かめるように聞くが、相手は答えない。
 ただ振り返り、酔った顔でこちらを見つめるだけである。
 その表情は本当に酔っているとしか思えない。
 しかし、それはブラフだろう。
 酔拳とは酔ったような動きで相手を翻弄し、油断したところで相手を討つというスタイルの拳法だ。
 だが、それが逆に仇となったな。あの本当に酔っているとしか思えない動きと表情は一朝一夕で身につくようなものではない。
 それはこの男がかなりの鍛錬を積んでいるということだ。
 故に本当に酔ったような表情は逆にこっちを警戒させるだけでメリットにはならない。
 それに僕があの男を見かけたときには、すでに酔っているようにしか見えなかった。
 つまり、それは相手が僕より先にこちらに気づいていたことを示している。
 この男は強い。総本山にいれば安全だと緩みきった者たちの中で、警戒を解かなかったというだけでも、この男のすごさが分かるというものだ。
 にらみ合いが続く。しかし、それは長いものではなかった。
「少年、今からとっておきのを見せてやる」と男がすぐに宣言したからである。
 男は「はああああ」と言いながら上下に手を動かし続ける。
 な、なんだあの動きは。
 それは動作が大きいだけで隙だらけの動きだった。
しかし、それ故に僕の警戒心が警鐘をならす。
 相手が何を考えているのかまったくもって分からない。
 実は何も考えていないのではないかと一瞬思ったが、あの爛々と輝いている瞳がそれを否定する。
 これは何だ?
 理解できないことを目の前に、僕は一時撤退することを決めた。

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