第二十二話 アラート

 アースラで過ごすこといくばくか、艦内に響くアラートに艦橋へとやってきた俺たちが見たのは、雨の中でフェイトが海底のジュエルシードを活性化させているところだった。暴走するかどうかのギリギリでジュエルシードを制御しているフェイトの表情は苦痛で歪んでいる。波と雨にさらされたその体はすでにびしょぬれだ。その姿を見ていられなかったのだろう、なのはがすぐに手伝おうとするが、クロノがそれを止めた。
「このまま放っておけば、相手はそのうち自滅する」
 そう言ったクロノの言葉は正しい。しかし、すべての人間がその言葉を納得できるかといわれればそうではない。理屈は分かっても心それを良しとしないからだ。ただ、彼女らのようにそれを行動で示せる人間はそうは多くないだろう。
 突然ユーノの後ろで魔力が高まる気配を感じた。
「きみは!」
 それに驚き、クロノが声を上げるが、その瞬間なのはは駆けだしていた。
「ごめんなさい。高町なのは、指示を無視して勝手な行動をとります」
 ユーノがすぐさま印を刻み、なのは供にフェイトの結界内へとぶ。周りのクルー達はなにもせずにそれを見送るが、そこには二種類の人間が居た。片方は立っている位置も含めて、止めることが出来なかったもの。もう片方は止めることが出来たが、あえて見送ったものだ。
「やっぱり、建前は大事ですね」
 二人が消えるのを見届けた後、俺はリンディさんの横に立ち、彼女に聞こえるくらいの大きさで言った。
「なんのことかしら」
「いや、艦長という役職にもなると本音だけではやっていけそうにないものだと感じまして。
 他意はありません」
 リンディさんクラスの魔導士になれば、おそらくユーノの行動も止めることが出来ただろう。立ち位置も彼女達にもっとも近く、印を結ぶまでの間に駆け寄ることもできたはずだ。にも関わらず彼女にはなのは達を止めようとする気概が全く見えなかった。
「十分に他意を感じるんだけど」
「誉めているんですよ。
 それよりも、目を離していて良いんですか? もうすぐ終わりますよ」
 そう、モニターの中ではジュエルシードの安定化は終わり、二人の魔法少女が向かいあっていた。嵐が過ぎ去り、雲の間から差す光に照らされるその姿はどこか神々しく、一枚の絵のようだ。
 しかし、そんな光景に水を差すように、またも艦内にアラートが響く。
「次元干渉!?
 別次元から本艦および戦闘空域に魔法攻撃来ます」
 言うが早いか、次の瞬間アースラが大きく揺れる。だが、そんな中、単身動く影が一つ。アースラの切り札ことクロノだ。彼はそんな揺れをものともせず、いち早く転移魔法を用いて艦からその姿をけす。おそらく向かった先はなのは達のところだろう。あそこのエリアにも雷は降り注いでいる。そのドサクサにまぎれて容疑者とジュエルシードが居なくなるのを防ぐためだろう。
「これが執務官の力か……」
 その力量はまさしく感嘆もの。自分との差に軽い嫉妬を覚えながらも、俺には近くの手すりにしがみつくのがやっとだった。

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