第二十六話 崩れ落ちる庭園

「これで最後か?」
 最後の鎧のアーティファクト兵士が倒れるのを確認し俺は呟いた。相手が半分になったところでクロノと二手に分かれ、俺は残りのアーティファクト兵士を殲滅する作業に取り掛かっていた。そして、その作業がやっと終わったところだ。しかし、もっとより深いところまで潜れば、まだまだ出てくるだろう。
「しかし、手ひどくやられたな」
 こちらの残存兵力を見ながら思案する。二十を超えるほどいたこちらのアーティファクトクリーチャーは、相手の数に押されて残り五体まで数を減らしていた。またその中でも普通に戦えるものは三体ほどだろう。
 再度カカシを召喚するべきだろうか。
 そう思案したところで、アースラの方角から飛んでくる陰を見つけた。黒のバリアジャケットに身を包んだその子は俺の横まで来ると一度停止する。
「なのは達はもっと奥に向かったよ。
 あの母親にいいたいことがあるのなら、先を急いだ方がいい」
 そんな彼女にそう一言投げかける。彼女は大きく頷いた。
「少しだけ力を貸そう」
 飛び去ろうとする彼女に一枚の術符を掲げる。発動する術符の名は『猛進』、対象のクリーチャーに先制攻撃を付加するカードだ。この世界での実際の効力は加速。これで、フェイトはより早く先に進めることだろう。飛び去っていく彼女の後姿を見ながら、俺はカカシの召喚準備に取り掛かった。
 ポケットから残り少なくなったカードを取り出す。出撃する前、五十を超えていたカードも残りは半数を切っている。その中からなけなしのクリーチャーカード三枚取り出すと構え、マナを供給した。
 呼び出すのは破れ翼トビ二体と牙のスカルキン。どちらとも2/1の軽量クリーチャーである。
 これだけじゃあ心もとないが、仕方ないだろう。
「いざとなれば、直接戦えばいいさ」
 そう呟き自分に『ゼフィドの抱擁』をかける。飛べないカカシも引き連れているために、スピードは出せないが地上を張って戦うよりはましだろう。俺は気合を込めなおし、前へと進み始めた。
 時の庭園の中を進んでいくと、先に進んでいったクロノやなのは達が撃ち落したのだろう、いくつものアーティファクト兵士の残骸が見える。そのため、戦闘はしなくてもよいが所々崩れたところもあり迂回しなければいけない場所も多くあった。俺だけなら直進できたのだが、こちらは飛べないクリーチャーを連れていたために、相することが出来なかったのだ。
 かといって飛べないクリーチャーを置いていくなんていう選択肢はない。そうすれば俺の戦闘力が落ちることは間違いなかったからだ。
 そのようなところで時間を浪費し、時の庭園の最深部、プレシア=テスタロッサの元にたどり着いたのはクロノはまだしもフェイトよりも後のことだった。
「あなたに言いたい事があってきました」
 フェイトが意を決して語り始める。
「私はアリシア=テスタロッサじゃありません。
 あなたのつくったただの人形なのかもしれません。
 だけど、私は、フェイト=テスタロッサはあなたに生み出してもらった、育ててもらったあなたの娘です」
「あはははは、だから何? あなたを今更愛せというの」
 それに対するプレシアの答えは嘲笑。しかし、それに負けじとフェイトは強い意思を込めていった。
「それを望むならどんな出来事からもあなたを守る。
 あなたの娘だからじゃない。あなたが私の母さんだから」
 その言葉をもプレシアは「くだらないわ」の一言で切り捨てた。プレシアは話はもう終わりだとばかりに床に向かって魔力を撃ち放った。それを見て俺は一瞬にしてポケットに手を伸ばす。発動しようとする魔法は『時間停止』だ。これと『時間の伸張』を組合せば、プレシアが虚数空間に沈むことを止めれるだろう。しかし……
 伸ばそうとした手は次の瞬間止まってしまった。いや、止めてしまったのだ。プレシアの狂気を見て、目の前で悲しそうな顔をしている少女を見て、ここでプレシアを助けることが本当にフェイトのためになるのかを疑問に思ってしまったのだ。
 アリサは以前にこの結末に対して、まだプレシアとフェイトは話しあう時間を十分持っていたとは言えない。だからプレシアが虚数空間に落ちるのを阻止するのだと言った。だが、実際にプレシアの姿を見ると、どんなに時間を掛けたところで無駄ではないのかと思ってしまうのだ。
 そして、それがこの結果を生み出した。
 プレシアの立っていた足場が崩れる。俺はすぐに『時間停止』を使うが間に合わない。止まった時間の中で彼女の体はすでに床の下へと落下していた。無駄だと分かっていても『時間の伸張』を使うが、これは時間を巻き戻すものではない。ゆっくりと進む時間の中で俺が目にしたのは愛娘と共に落ちていくプレシアの姿だった。

- 目次 - - 次へ -

inserted by FC2 system