第二十八話 新たなるはじまり

 ある夜、食後に部屋でくつろいでいると妙な感触を感じた。具体的には部屋の気圧が上がったような圧迫される感覚。しかし、それは魔法に関りのない人間は感じることのない魔力的な感覚だ。
 この感触は結界だろう。
 過去の経験からそう思う。街中に埋め込んである杭との魔力的なつながりを調べ、結界の発生位置を調べる。方向は街の中心付近のようだ。この時期、このように結界がこの街で発生する理由には心当たりがある。おそらく闇の書の守護騎士が一人、鉄槌のヴィータがなのはのリンカーコアを収集するため、襲い掛かろうとしているのだろう。
 どうする行くべきか? 心の中で自問する。一応管理局には属しているのだし、このような場合にはそれを調査する義務はあるだろう。
「亮也、これって」
 そこまで考えたところで、部屋に駆け込んでくるのは小さな影。日本ではめずらしい金髪の彼女は急いで来た為であろうか、若干息が乱れている。
「ああ、アリサ。
 結界が張られた。中心地はおそらく繁華街あたりだと思う」
「ということは間違いないわね」
 状況を聞き、確信したかのような表情で言う彼女に「ああ」肯定する。
「アリサの想像している通り、ヴィータだろう」
「だったら、すぐに行かないと」
 今にも飛び出していきそうな彼女。しかし、俺はそれを止めた。
「いや、ちょっと待って欲しい。
 現場には俺だけで行くから、アリサはここで待っていて欲しい」
 その一言に彼女は不満そうな顔をするが俺はかまわず続けた。
「アリサは闇の書が完成するまで、極力関らないでほしいんだ」
「なんでよ」
 そう言い返すアリサに俺は頭をかきながらしばし考えた後、思考をまとめ口にする。
「今回様子を見に行くということは、守護騎士達と顔をあわせるということだ。
 アニメと現実は違う。お前は、すずかと一緒にいてはやてと会わない自信があるか?」
 アリサはそれに黙り込んだ。世の中に絶対ということはない。アリサはまだ子供だが、それをちゃんと理解している。
「いざとなったら、フェイトとなのはがはやてに会わないように誘導して欲しいんだ。
 だから、俺一人で行こうと思うんだが」
 アリサは拳をぎゅっと握り締めていたが、納得したのだろうその力を緩めると頷く。
「分かった。
 だから、ちゃんと無事に帰ってきてよ」
「逃げ足だけには自信がある。
 任せておけ」
 それだけ言い残すと、ポケットからゼフィドの抱擁を取り出し自分にかけ外へと出た。
 夜闇のなか光り輝く夜の街。人目につかないようにその光が届かぬ上空を飛びながら結界の発生地点へと急いだ。魔術的視点で見れば、そこに半球型の薄い膜が見れる。それこそが結界の境界だろう。その手前までくると、俺は術符を一枚取り出し中へと転移した。

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