艦内にて
アクシズのMSが離れていく。こちらの損傷は軽微だ。なんとか撃退できたか。
「よし、奴ら退いていくぞ」
「やっとかよ。さすがに今回ばかりはやばかったな」
「いえてる」
戦艦一隻を二機の整備不良のネモで迎え撃つのは骨が折れる。
「でも、どうしてあんなにもあっさり退いてくれたんだ? 数でも機体状態でも向こうが有利だったのに」
「あの動きを見る限り、あまり戦闘に慣れた連中じゃなかった。それに……」
「お疲れ様です。二人とも戻ってください」
オペレータの声、交戦中とは大違いだ。さっきまであんなに動転していたのに。
「了解」
俺もやっと一息入れれた。
でも、緊張を解くわけにはいかない。いつまた追ってくるか解からないのだ。
パイロットが二人じゃ、休みたいなんて言えやしない。それでも、俺たち二人に艦の運命が半分くらいかかっているのだ。弱音は吐けない。
「それに……なんだんだ?」
トニーが訝しそうに訊いてくる。
「ああ、やっと俺たちにもお迎えが来たみたいだしな」
「そうなのか?」
そうなのだ。やっと別の艦と合流できる。
「おい、聞こえてなかったのか」
戦闘中の通信だ。聞こえない事も多々あるが、聞き逃すだけで死に繋がるとこもある。俺はそれをよく知っている。
「どこの誰だよ?」
「艦の名前は聞こえなかったけど、アライン・トレイバル少佐の――」
「アライン・トレイバル少佐だって!」
俺の命の恩人、アライン・トレイバル少佐だ。一年戦争後しばらくロブが彼の部下だったみたいだが、その後のことはあまり聞いていない。少佐に昇進したって聞いたのも一年ほど前のことだ。たしか、それもロブから聞いたような気がするが、違ったか。
「そうらしい。お前も知ってるのか?」
「知ってるも何も、連邦の隠れエースだよ。MSの操縦も一流だが、特にMS部隊の指揮に優れすぎて名前の知られていない」
優れすぎて名前が知られない。
上層部に嫌われているのか、それとも敵に知られたくないからか。
「だから、知らない人がいるのか? 俺は何とかって特務部隊の隊長だからあまり表にでてこない名前だと聞いていたんだけど……」
ロブがそういっていた。だからそうだと思っていた。
「それもあるけどさ。それより、トレイバル少佐ってことはお迎えじゃないな」
「へ?」
「あの人もティターンズとの決戦に来てたはずだから」
「そうなのか?」
俺たちの前にMSの残骸が漂ってきた。
こいつはティターンズのMSだ。このMSはデブリとなって宇宙をさまよい続けるのだろう。誰かに回収されることがあれば、中で息絶えたパイロットの亡骸も親族のもとに帰れるかもしれない。だが、そんなことはまずないのが常だ。
「そうだよ。お前、ランディと仲良かっただろ? あいつも来ててさ。あいつは少佐の部隊にいるはずだから間違いないって」
「ロブとは開戦前にあったけど……そうだったのか。ってことはロブも来てるのか」
「多分な」
ロブはきっと生きているさ。
今の今まで、ロブのことなんか忘れていた。それは死ぬはずがない、かならず生きている。そいう思いからだ。
俺は今乗っている艦を見た。
ボロボロだ。カタパルトデッキは使い物にならないし、被弾して封鎖された区画もある。
いつまで逃げればいいのだろうか。
俺たちはハンガー入り口に立ったメカニックの誘導に従って着艦する。
「おつかれさま。すぐ次があるかもしれませんが、できる限り休んでください」
「ああ、そうさせてもらうよ」
トニーが疲れきった声で答えている。
MSをハンガーに入れた後は、コックピットから出る。
そして、そのままハンガー上部まで進む。こういうとき、重力が無いっていうのは楽だ。一蹴りしたらそれだけであっちにいける。
「皆、聞いてくれ」
艦長の声だ。艦内放送か。
「我が艦はサイド1宙域に向かっていたが、サイド1の多くのコロニーはすでにアクシズによって制圧されているようだ。そこで我々は当初の予定を変更する。
まだ行き先は決めていないが、なるべく早く安心できる場所を探す。
もう少し辛抱してくれ。以上だ」
ハンガーにいた連中から一斉に溜息が漏れる。隣にいたトニーもだ。
そろそろ落ち着きたいものだ。